ゼロ時間の謎


アガサ・クリスティ原作、監督は昨年公開された「奥様は名探偵」のパスカル・トマ。フランス映画のため登場人物の名前が原作と異なり、ちょっと戸惑った。


ブルゴーニュの海辺に立つ別荘。大金持ちの女主人(ダニエル・ダリュー)のもとを、テニスプレイヤーの甥(メルヴィル・プポー)とその妻、さらに彼の前妻、友人などが訪れる。まず命を落としたのは高名な弁護士。そして嵐の夜、第二の殺人が起こる。



年末年始にテレビで観る海外ものといえば子どもの頃は「タワーリング・インフェルノ」、もう少し後ではグラナダポアロものだった。そんなわけで、お正月にはこれがいいかなと思い劇場へ出かける。
市川崑の横溝モノDVDに特典で収録されていた予告編には、でかでかと「娯楽大作!」というあおりが入れられていた。ばんばん人が死ぬのにおかしな気もするけど、皆が知ってるミステリーを、皆が知ってる役者さんが演じるのは、かつてのかくし芸大会のようなノリの「娯楽」だ。お正月に合う。
今作の冒頭、新妻のキャロラインが自分の意に沿わない夫のギョームをテープで縛りあげるシーンがあまりに大仰で演劇的で、違和感を感じたものだけど、かくし芸大会のようなものと思えば腑に落ちる。


クリスティをあまり読んだことのない同行者の感想は、「全員が容疑者じゃないのが意外だった」というもの。「オリエント急行殺人事件」のようなのをイメージしていたんだろう。
彼女の作品には、夢の中を手探りで進み、最後に霧が晴れるようにあたたかい現実に戻るといった作風のものも多く(「杉の柩」など)、この作品も私からするとその類に入る(原語で読んだわけじゃないけど)。そうした雰囲気がなければ作品の魅力は半減してしまうが、映像で表す・感じるのは難しい。今回はその代わり?に、原作にはなかったギャグがフランスぽく振りかけられており、楽しめた。


主人公のお坊ちゃんテニスプレイヤーを演じたメルヴィル・プポーはよかった。端整な顔立ちと身体つきに、高価でコンサバな格好が似合う。どの階段も、当然のように二段飛ばしでかけあがっていたのに惚れぼれした。
彼の前妻は「白いバラ」、現妻は「赤いバラ」と第三者によって評される。前者を演じた女優さんは、母親であるカトリーヌ・ドヌーヴを押しつぶして寸詰まりにしたような容姿。海辺に立つ後姿は「おっかさん」というかんじだったけど、たんに痩せているとも太っているとも表現できない、愚鈍さと女らしさを両方備えた雰囲気は、原作からイメージしていた大竹しのぶと通じるところがあり面白かった。
また、彼女から夫を「奪った」現妻に対しては、原作では結構親近感を抱いていた(どっちと友達になりたいかといえば当然こちらだ)けど、この映画ではあまりにも下品に演出されていてびっくりした。演じたのはナタリー・バイユの娘だそうだけど、色んな意味で身体を動かすのが好きそうな雰囲気がよかった。


ル・シネマのロビーには、映画化を記念して作られたというウェッジウッドティーセットが展示されていたけど、お茶を飲むシーンはあまり印象に残らず残念だった。