ふたつの名前を持つ少年



原作はウーリー・オルレブの「走れ、走って逃げろ」。私は未読、これは読んでみたい。


この映画、ロケ地が凄い。特に木!なんだこりゃという木がたくさん出てくる。森での仲間を失ったスルリックがとんでもない木の上で泣く場面にわざとらしさを感じたものの、後の犬とのくだりで、高い所に上るのが落ち着くのだと思う。彼を救ったマグダの家の前の木も凄い(語彙が無いようだけど、そうとしか言い様が無い・笑)けど、スルリックがその脇を通るのは身の危険が迫り出てゆく時だけ。
見ながら、背景が「フォトジェニック」すぎてうるさいように感じていたけれど、終盤知り合った少女が「きれいなものを見せてあげる」とユレク(スルリック)を連れて行くのが、これまでに比べたら何の変哲もない川辺だというのに胸打たれた。「逃げる」必要の無い彼女にはあれが美しいのだと。二人は飛びきりの笑顔で遊ぶ。


ユレク(スルリック)が父や母の夢を見てうなされる時、マグダも看護師もロウソクの灯りで落ち着かせ「寝なさい」と言うしかない。父や母が「大丈夫」なわけがないし彼だって「大丈夫」じゃないからそれしか言えない。あれが辛い、と同時に大人の真摯さを感じた。
ユダヤ人孤児施設の男がユレクの十字架を「お前までこんなものを」と放り投げるのは、彼も相当な目に遭ったからだろうか?(顔の傷が色々と想像させる)「君は我々の未来に必要なのだ」「我々って誰?」「ユダヤ人だ」のあたりで、ああこの映画もまた、抑圧され壊れた「自分」を再生する話なのだと気付く。ラストに示される「本人」の現在は、「スルリック」が父に言われた「とにかく生き延びる」「ユダヤ人であることを忘れない」ことを見事に体現している映像で、効果的だと思った。