ハッピーエンドが書けるまで



「きっと、星のせいじゃない。」(感想)のジョシュ・ブーン監督が2012年に手掛けた長編デビュー作。
本作のリリー・コリンズとジェニファー・コネリーの母娘は、「きっと〜」のシェイリーン・ウッドリーローラ・ダーンとジャンル的には同じ組み合わせだけど、「顔はそっくりだけど体型が似ていない」「顔は似ていないけど体型に通じるところがある」という点では正反対だな(笑)


オープニングは国語の授業の板書(文章の技法のあれこれ)のアップ。授業を受けるラスティ(ナット・ウルフ)の心の中の声が手書きの文字で画面に浮かぶ。次いでサマンサ(リリー・コリンズ)が目の前の誰かに話し掛けるセリフが、手書きでは無く打った文字で浮かぶ。それから古ぼけたキャップを被り人の家を覗き見するビル(グレッグ・キニア)の考えが、やはり打ち文字で浮かぶ。三人とも「作家」だが人間としては違うタイプであることが分かる。最後の文章に何となく職業的なものを感じていたら、この段階では二人の父親であるビルだけが「職業作家」なのだった。
本をせっせと読んでいた10代の頃、自分の考えが文庫本の文章のように(どの出版社の文庫かはともかく・笑)縦書きで頭に浮かんでいたことをふと思い出して惹き込まれた。何たってこの場面だけで、リリー演じるサマンサがどんな女の子だか分かる。


ラスティと母エリカ(ジェニファー・コネリー)の、彼女の現在の夫についての「原始人がパパを悪く言った」「言っていないわ」「話の中で悪者にした」というやりとりには、作家ってそういうふうに物事を捉えるんだ〜と思い面白かった(笑)
全編通じて親しみやすい文学愛とでもいうものに満ちた映画で、まずは本そのものを楽しく見せてくれる。クリスマスの買い物中に偶然会ったビルとエリカがお茶をする、本屋とカフェが一緒になったお店の素敵なこと。息子の部屋で日記を手にしているところに踏み込まれたビルが「読んでたんじゃない、日付をチェックしてたんだ、でも『目を引く』ところがあって」。この時に彼が「目を引かれた、出だしにぴったりだ」と読みあげる文章が、この映画自体の最初の文章だというのが憎い(笑)


登場時、あまりの可愛さに衝撃を受けたリリー・コリンズが、見ているうちに映画に埋没していく、というか馴染んでいく。悪い意味じゃなく、私にとってはそれがいい映画。いちいち可愛いと思ってたら気が散るからね(笑)
ルイス(ローガン・ラーマン)が見抜く(が口に出してしまい後悔する)ように「自分よりIQが低い男だけ」と寝たり、モルモン教徒の男の子を「人間にとって生殖が全て」と(「くだらない男」がやるように)口説いたりする姉のサマンサと、「初めて失恋」して友人と酒や薬に溺れる弟のラスティというのは、今更ながら昔の「ありがち」な男女描写が逆になっているのが面白い(昔の映画じゃ「女」は自棄になってもセックスじゃなく酒方面に走ったものだ)私は「女の子にはそれぞれの真面目さがある」ということを描いた映画に弱いから、あんなベタなセリフなのに!エリオット・スミスの「Between the Bars」が流れる場面には涙がこぼれてしまった。


終盤ある人物が亡くなったり、「恋敵」の男性達が揃いも揃って人格の無い「嫌な奴」なのは都合が良すぎじゃないかなどと思うも、父が息子に「作家なら若いうちにパーティに行ったり女の子と付き合ったりしなきゃ」なんて古臭いアドバイスをする時に父親が足首を掻く音がぼりぼり響く、何だかそんなことで、色んなことが「許せ」てしまう。
でも私が一番ぐっときたのは、ビルがエリカについて「彼女は自分より立派な人間だから」と娘に話した次の場面で、彼が机に飾っている写真が作中初めてはっきり映るところ。ああいう時に、映画って素敵だなと思う。