春を背負って



公開初日、TOHOシネマズ日劇にて観賞。
午後イチの回は、マスコミ取材無しの舞台挨拶付き。監督の木村大作松山ケンイチ蒼井優豊川悦司檀ふみ新井浩文が上映前に登壇。相変わらずマイクを使わない監督は司会に「見所は」と振られ「見所なんてものは無い、全てが見所」、「最後に一言」には「(座席が前方まで詰まっていることについて)ここは日劇のメイン館なんだから(以下略)」というようなことを言っていた(勿論、文脈あっての発言ね)
松山ケンイチが「感じ」と口にする時に出た訛りと、新井浩文の「『映画館に』映画を見に来てくれてありがとう」という発言が印象的。私は彼のこと、舞台挨拶で二、三度見てるんだけど、いつも登壇者の中で最もストレートな「映画愛」を感じる。


オープニングからいきなりクライマックス!のような映像(音楽含め)に戸惑い、キャストの中で最初に登場する小林薫が第一声を発する場面に、そういや監督の前作「剣岳」でも、どうにも「コント」感を拭えなかったなあと思い出す。作中唯一(唯二、三?)の「スローモーション」が、松山ケンイチが久々に訪れた「すみれ荘」の入口で足を踏み外して転げ落ちる「笑える」シーンと、豊川悦司が「いま春が来て〜」と歌いながら山小屋に戻ってくる「感動的な」シーン、というセンスにも馴染めない。
とはいえ見ていて楽しかった、松ケンがオムライスを引っくり返すのにつられて私もポップコーンを引っくり返してしまったくらい(笑・殆ど入ってなかったからこぼれずよかったけど)その理由?を下につらつらと。


オープニング、植物の上を雲が移ろってゆくのをカメラが捉える。「本物」だなあと思う。桜に鯉幟、紫陽花、紅葉と「章」の冒頭で季節の移り変わりが分かりやすく示される。
松ケンの子ども時代を演じる子役が「自分で」転ぶのを始め、山を登ってるのが全て「本人」、遠景の中に居るのも「本人」というのはやっぱり面白い。「背負われている」のが本人というのもすごい。池松壮亮が一番大変だったんじゃないかな?いや「体力的」には、「クライマックス」の松ケンの大変さには負けるか(笑)
松ケン登場時、高層ビルのオフィスで外を眺めている彼の向こうのガラスがえらく汚いのが心に残った。山で見る景色と、高度はあれど都会で見る景色は違うってことか。これが、舞台挨拶の際に壇ふみが明かした、監督の「映画じゃない、ポエムを撮ってる」という精神なのかと思った。


蒼井優の作る、壇ふみいわく「ちょっとしたレストランより美味しいって評判なのよ」という料理のラインナップが、焼きうどん(?)、カレーに牛丼、オムライス、というのがいいし(「山小屋」だからそういう「シンプル」なメニューになるんだけど)、「最近の日本映画」みたいに料理をこってり映さない、何だか分かる程度なのがいい。
それに、母と息子の二人、「父親代わり」と息子の二人を見て「羨ましいなあ」と口にする、「欠落を抱えた」人間である彼女の、ベタな告白シーンにほろっとしてしまった。役者さん達が皆、魅力的だった。出てると知らなかった安藤サクラの、一度だけのバストショットもよかった。


豊川悦司は舞台挨拶で見たところ半白髪って感じで、それでも全然かっこいいのに、映画の中では髪が真っ黒。山暮らし(その前も「その日暮らし」)なんだからこの場合はオン・オフ逆の方がいいんじゃないか?まあそれを言ったら、もっと年嵩の壇ふみ市毛良枝だって頭、真っ黒だった。もっと年齢を重ねたら、作中の市毛良枝みたいな髪型(「一見」ごく普通のショートヘア)にしたいなと思った。メンテ大変そうだけど。