立候補



泡沫候補」と呼ばれる立候補者達を追ったドキュメンタリー。


マック赤坂が街を流すロールスロイスの前方に据えられたカメラの映像と、外山恒一政見放送とをミックスさせたオープニング。「世の中に不満がある場合…」と提示される幾つかの中に「選挙に立候補する」との一文があり、三文字が残ってタイトルとなる。
全編に渡ってこうした文字いじりが多く、公職選挙法を「要するにこういうこと」と口語体?に変換したり、候補者の選挙運動の様子を映した後に「彼は大体、うちにいた」などとまとめたりする、同調を求めるようなセンスには乗れず。違う上映形態ならそぐうのかもしれない。


どアップで映される、マック赤坂外山恒一のフォトジェニックなこと。マックの秘書が「人間、いいところもあれば悪いところもある」と言うように、だからといって投票するかというと、そういうわけじゃないけど、スクリーンで見て魅せられた。
「立候補」の裏側はとても興味深い。一番面白かったのは届出当日の場面。8時半に開始というので時報を確認したり、人名の書かれた札が曲がっていないか気にしたりするスタッフの姿が妙に可笑しい。街では決して見られないものだから面白いわけだ。
その会場でマックが隣の秘書に一言「羽柴秀吉は来ないのか?」。終盤、他の「泡沫候補」である高橋氏が羽柴氏について語る内容など、同志?間の思いも窺えるのが楽しい。ちなみに羽柴氏といえば私にとっては「元気が出るテレビ」の三上君(かっこよかったよね)のお父さんだから、懐かしかった(笑)手術が成功してよかった。
本作の宣伝文句の「なぜ戦う」については、人によって何かをする理由は色々だから、分からないのが当たり前だと私は思う。だからそういうところに踏み込むより、(マック赤坂ばかりじゃなく)もっと多くの候補者の、色々な面、あるいは「裏側」を見たかったというのが正直なところ。


とはいえマック赤坂の「選挙運動」を長々捉えた場面はいい。選挙区外である京都で府警と揉めた後、交差点のど真ん中でパフォーマンスを始める場面(一緒に食ってかかっていた秘書が彼の放り投げたタンバリンを歩いて取りに行くのも最高)、最有力候補者である松井一郎とその応援に駆けつけた橋下徹選挙カーで対峙する場面など、映画に残してくれてよかったと思う。これは今年で言うなら、「だいじょうぶ3組」で乙武氏の肉体の美しさを撮ってくれたことに対する気持ちに近い。
橋下徹と向かい合う場面では、マックの横顔が延々続くあたり、センチメンタルが過ぎないか?と思ってしまった(笑)加えてこのくだり、方向感覚が妙で見辛い。この時にマックは「明日(投票日)は東京に帰るから」と敵に「遺言」を託すんだけど、見ている私も、彼の心情に沿っているかのように、なんだか尻すぼみの気分になっていた。これも映画がマックばかりを追っているせいかもしれない。
しかし最後にとんでもない巻き返しが!ドキュメンタリー映画としては最高のものが捉えられている。秋葉原での自民党演説の場にマックが登場し、シンパの攻撃を受ける。その時の、彼の息子…中盤父から受け継いだ会社でインタビューを受けている時には、話す時の身振りがそっくりだなと思ってたんだけど…の姿に涙があふれた。その言動を、選挙カーの上から笑い飛ばして見せる(それも「パフォーマンス」のうちだからね)マックもいい。


全編通じて最も心に残ったのが、届出会場において、マック赤坂選挙管理委員会に対し「同じ供託金300万を払っているのに『メイン候補』とその他を分けて新聞掲載するのは憲法十四条違反じゃないか」と言うと、「ここはそういう場ではありませんので」と返される場面。じゃあどこなら「そういう場」たりえるんだよ、と思ってしまう。
それから、マックが自分の政見放送を見終わって「90点はいってるな!」。終盤、当選した橋下徹が記者会見で「落選したら存在していないのと同じ」というようなことを言うんだけど、アリかナシかだけじゃない世界に生きる者もいる。自分の選挙運動そのものについて思いを抱くことだって出来るのだ。
結局のところ、「思ってもいないことは言えない」とただ挨拶だけを繰り返していた高橋氏同様、本作に出てくる人達は皆、「自分」を捨てられないんだな。それって「当たり前」の、しごく真っ当なことじゃないかと思う。