だれもがクジラを愛してる。



鯨救出の話にこの邦題…と少々身構えてたけど、その扱いは軽やか、とても楽しく観た。
色んな人が一つ所に集まり、目的に向かって頑張る。88年に起きた実話が元だそうで、当時のニュース映像も使われてるけど、そうでなくても懐かしい映画の匂いがした。当時ならそれぞれの役、誰がやったかな?なんて想像したり。
冒頭、「グリーンピースのお姉さん」ドリュー・バリモアが、いわゆる「プリン頭」にドラッグストアで買ってきたような口紅を急いで塗りたくり拡声器で主張する姿の「程よい距離感」に、これなら観易いなと思ったものだけど、そんなこと関係なく楽しくなってくる。大体、エンディングに出てくる「本物」を見ると、アタマ以外は同じなんだもの(笑)


氷に阻まれたクジラの元にやって来るのは、地元のイヌピアト族にグリーンピースにマスコミ、石油採掘会社に無名の企業、政治家に軍隊。思惑は皆それぞれだ。
イヌピアト族が…その「代表者」が、だけど、「例えおれたちがクジラを崇拝していようと、捕鯨なんて、よそ者にはただのスプラッタさ」とあっさり協力を決めるのがいい。でもその後にちゃんと、「おじいちゃん」がクジラと会話する様子が挿入される。こんなふうに、描かれる内容が的確でリズムもいいので、観ていて気持ちいい。
「寒い」ことから起こるトラブルも、程よいスパイス。段ボールのあんな使い道は知らなかったし、起動させたままの発電機をヘリコプターで運ぶために…のくだりはびっくりした(笑)「石油が無くなった時のために狩りの仕方を伝えていかないと」と言うイヌピアト族の、真面目さとちゃっかりさのバランスもいい。唯一の宿が一泊500ドルだったり、犬ぞりツアー?や段ボールを売ったり、「メキシコ人」の店をやってたり。


映画はイヌピアト族の少年の語りに始まりその語りに終わる。ラストに「よそから来た人はよそに帰って行った」と、皆の「その後」が語られ、更にエンドクレジットで「本物」が見られるというのは、くどいけど(笑)楽しい。
エコで売名行為を行った「社長」が、最後に「間近であれを見れば分かるさ」と言うので、ああこれは、とある「場」を体験した人たちの話なんだ、とあらためて気付いた。そのキモとなる「クジラ」を仰々しくは撮らず、ドリューが氷の下にもぐる場面や、少年がクジラの声を求める場面などで、その「場」の感じを伝えてくれるのがいい。