死刑弁護人



死刑事件を数多く請け負う「死刑弁護人」、安田好弘の一年間を追ったドキュメンタリー。


オープニングは安田氏の顔のドアップ、カメラが引くとロングシートに腰掛けてパソコンに向かっていることが分かる。テロップで名前と年齢が示される。その年齢(うちの母親とおない年)にしては随分くたびれて見えるし、電車の中で遭遇したらその形相に少し驚いてしまうと思う。
しかしカメラの前でインタビューに答える顔は、全然違い穏やかだ。本作では幾つかの事件の経緯とそれについての彼の語り、その合間に「私生活」…といっても自宅に帰るのは月に一度ということだから、職場の一室で顔をてからせながらパソコンに向かう姿や、近所の飲み屋で談笑する姿などが挿入される。チャーミングなおじさんという感じ。


若い頃の写真(当たり前だけど顔が今と同じ・笑)に次いで、学生運動の話。「学生運動に関わっていながら(司法試験に受かって)弁護士以外を目指すなんて考えられない」「国家権力に対する反抗ですね」。弁護士になって初めて担当したのは、日雇い労働者と暴力団の小競り合いが絶えなかった山谷において、警察が労働者側を逮捕していた事件だという。
弁護した相手は当然ながら登場しないので、安田氏が彼らについて語るわけだけど、その口ぶりや言葉の選び方が面白く、彼が人間に惹かれて働き続けていることが分かる。林真須美は「芯が強く茶目っ気がある、すごい人」、麻原は一言「洒脱」。恩赦請求中に死刑執行された男性について「判決が出れば終りじゃなかった、一緒に歩んで行こうと言ったのに…」と涙ぐむ。


安田氏はマスコミを「『悪者』バッシングの話題を提供するだけ」と嫌う。作中何度か、「マスコミ」や事件に興味を示す世間の様子が映し出される。カレー事件の際に林宅を取り囲む脚立の群れ、傍聴券を求めて並ぶ一般人の行列、当たって小躍りする人。光市事件で「死刑判決が出ました!」と叫ぶリポーターの顔は、スクリーンに大写しされると正視に耐えないほどみっともなかった。しかし私もそういう情報を「喜んで」しまう。
最後に「もし身内が殺されても死刑に反対しますか?」「これからも死刑弁護人としてやっていきますか?」なんて、「普通」のドキュメンタリーなら何とも間抜けな質問だけど、本作の場合、おそらくこれが多くの人の本当に知りたいことなんだろうから面白い。