約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語



「天国と地獄の間に真実がある」


最近観た映画のうち、最も「予告編から想像してたのと違う内容」だった。「天使に助けられてワイン作りに成功した男が、傲慢になり『罰』を受け失敗し、立ち直る」という話かと思っていたら(そもそもこの発想が貧困なんだけど…笑)、全く違っており、それゆえ面白さを感じた。



19世紀初頭のブルゴーニュ地方。ワイン作りに意欲を燃やす農夫ソブラン(ジェレミー・レニエ)の前に、天使ザス(ギャスパー・ウリエル)が姿を現す。ソブランは年に一度会うことを条件に、彼からアドバイスを受ける。


(以下「ネタばれ」のため、これから観る人は読まない方がいいかも)


色々な人物が登場する。ソブランは「経験」のみを信じ、生きがいを求める男。その妻は、子どもが病気になると医者でなく司教を呼ぶ(当時はそれが「普通」であったらしい描写)。男爵夫人(ヴェラ・ファーミガ)はパリで学問を修め、自らの体の異常を書物で調べ、外科手術を受け生き延びる。物語の全体的な印象としては、美しくも過酷な「自然」の中で、様々な人間が織り成す愛情のアンサンブル、といった感じを受ける。
天使ザスも、アンサンブルの一部を成す。上に記した陳腐なストーリーならば、「天使」は人間と相対する「絶対的」な存在だが、ザスはそうではない。彼は「野心」を持つソブランに惚れ、友達になりたくてやってくる。ワイン作りのために苗木やアドバイスこそ与えるが、助けたり罰したりはしない。しかしソブランはザスのことを「友達」とは思っていないため、問題が起こる。私にとって今作のメインは、二人の「すれ違い」とその回復であった。「ワイン」は彼らの人生の「結果」である。


(この作品は、「絶対的」でない「天使」は存在しないと言っている。なぜなら、迷い、考えることをしてしまうザスは、「堕天使」になった後、自らの意思により「天使」でなくなるから)


様々な種類の「愛」の発露として、「抱きしめる」という行為と「知りたい」という欲求が描かれる。前者については、冒頭、葡萄畑で作業中のソブランがたまらず愛する人(後の妻)に飛びつき転げまわるのを筆頭に、彼がザスに、男爵夫人に抱きつき、抱かれる場面が幾度も挿入される。後者については、例えばソブランはプロポーズの際「君のことを知りたい/ぼくのことを知ってほしい」としたためる(この「手紙」を書くシーンがとても良い)。またザスはソブランに対し「君のことを知りたいから話してくれ」と頼む。寒々しい風景の中で、こうした描写の数々はとても温かく感じられる。


皆の衣装を観るのも楽しい。「男の天使」ってもともと好きだけど、なまなましい羽根を背負うギャスパーの姿は最高だった。
ソブランの、時代・暮らしと共に移り変わってゆく衣装も面白いし、私は「森ガール」(←この言葉、今初めて使った・笑)には興味ないけど、彼の妻のような格好なら素敵だなと思った。繊細な素材による、男爵夫人の対照的なドレスも魅力的で、ヴェラ・ファーミガにぴったりはまっていた。