BOX 袴田事件 命とは


銀座シネパトスにて、公開初日に観賞。


題材は実在の「袴田事件」。昭和41年、静岡県のみそ製造会社の専務宅において強盗殺人放火事件が発生。従業員の元プロボクサー・袴田(新井浩文)が逮捕され、19日後に自白するも、裁判では一転して無罪を主張。主任判事の熊本(萩原聖人)は、自白の信憑性に疑問を抱く。



期せずして舞台挨拶に遭遇した。上映終了後に高橋伴明監督、萩原聖人新井浩文石橋凌が檀上で挨拶。まずはほぼ全員が「映画館に来てくれて/この映画を選んでくれてありがとう」。
監督いわく、一番言いたいことは「冤罪はいかん!」。また、モントリオール映画祭に出品決定したことについて「ありがたいけど、裁判員制度のために作ったから、日本の皆に観て、評価してほしい」。
主演の萩原聖人によると「最近はほとんどの監督がモニター見てるけど、伴明監督はいつもカメラの横にいるから緊張する」。新井浩文はくだけた調子で会場の空気を柔らげ、石橋凌は「類型じゃない、一人の人間を演じるよう努力した」と述べた。


萩原聖人の登場シーンが学ランだったのにびっくり。ギリギリいける(笑)
(ちなみに90年代前半に私が高校生だった頃、彼は女子に大人気だった)


オープニングから陰鬱な音楽が流れて、暗い気持ちになる。その後は正直、長い講習ビデオを観てるようだった。萩原聖人が弁護士の後輩に向って「アウシュビッツでのそうした例を知ってるか?」「知りません」「それはね…」というように、色んなことが懇切丁寧に説明される。予告編を見た際には、なぜ彼がこの役を?と思ったけど、こういう分かりやすさには合ってる。
物語はちょっとした昭和史にもなっており、冒頭では、実写フィルムを挟み込みながら、昭和11年に生まれた袴田と熊本が育っていく様子が描かれる。彼等が教科書を黒塗りする(塗りつぶされる)シーンに、もしこれが外国映画なら、このレベルの「歴史的事実」であっても、私の知らないことってたくさんあるんだよなあ、などとふと思った。


映画が始まると、画面に大きな「○」と「×」が出現する。そしてラスト、「あなたが裁判員ならどう裁きますか?」というナレーションに続いて、再度「○」と「×」が映し出される。
「映画」を根拠にそんな判断していいのか?と一瞬思ったけど、考えたら、そういうことじゃない。重要なのは、作中萩原聖人が何度か口にする「裁判において、裁判官もまた裁かれている」というセリフ。「17歳の肖像」の感想で書いたことにもつながるけど、人間が人間相手に何かを行う場合、それは決して、一方的な行為ではありえない。大きな意味では、そのことを改めて考えるための映画だと受け取った。