冷たい雨に撃て、約束の銃弾を



「This is 映画」、最高に面白かった。こういうのを劇場で観られれば幸せ。
オープニングに匂う「こりゃいいぞ!」感、全篇に渡る、爆発させない程度に手綱を締めた高揚感、ラストのはかない幸福感、安易な例えだけど、普段こういうセックスができれば幸せだな〜って感じの映画。


愛する娘とその家族を奪われた初老のフランス人・コステロジョニー・アリディ)が、マカオで復讐を誓う。かつての傷により記憶を失ってゆく身の彼だが、「全財産」を投げ打ち、クワン(アンソニー・ウォン)ら殺し屋三人組を雇う。


ジョニー・アリディはほぼ全篇、ソフト帽にトレンチコート、その襟を立てている。うちの父が母によく「こうしたほうがかっこいいんだから〜」と襟をいじられてるのを思い出してしまった(笑)ケガをしようと、記憶を失おうと、ジョニーの襟は立ったまま。ダンディな男なのだ。


冒頭から心躍るシーンの連続。まずは娘役のシルヴィー・テステュー(「サガン」感想)が素晴らしい。子どもを抱えてひきつる顔、銃を撃つ姿、そして涙。魅力的な「普通」っぽさがある。
その現場をコステロたちが訪れる場面には、作中最も高揚させられた。荒らされた「家」を調べる殺し屋たちの姿の合間に、彼等の手で検証されてゆく、事件の様子のフラッシュバックが挟みこまれる。一方で、冷蔵庫を覘き、娘の用意した食材でパスタを作るコステロ。「三人の東洋人と一人の西洋人」は、共に食卓を囲む。娘の暮らすマカオに、コステロは「初めて来た」と言う。そんな彼の過去が一つ、ここで明かされる。



月明かりの下で行われる、第一の銃撃戦。「撃ち合い」そのものだけじゃなく、その状況、さらには銃を持つ人間のポリシー…俗に言う「美学」が場面を盛り上げる。子どもの投げたフリスビーを背に無言の男たちには笑いもこみあげてきたけど、彼等が揃いでキメている「美学」に胸打たれる。
殺し屋やマフィアが出てくる映画なんて、つまらなかったら「しょせん人殺しじゃん」で終わりだ。でも面白い映画って、観ている内は「我に返らない」。丹念に描き込まれる(「敵」側には無い)主人公側の「美学」、加えて「悪役」の分かりやすいワルさに、心が燃える。
また、この映画では終始、色んな意味での「ファミリー」が強調されており、クワンの「いとこ」と殺し屋たちが「それじゃあまたな〜」「今度めし食おうな〜」と別れる時に流れる、作中唯一の牧歌的な音楽が印象的だった。


劇場に貼ってあった監督ジョニー・トーのインタビューによると、主役は始めアラン・ドロンに依頼してたそうだけど、ジョニー・アリディ、最高だった。「記憶障害、年寄り、異国人」という「ハンデ」が活きている。映画においては「弱い人間」の「強さ」が輝く。
雨の中、迷子になるシーンでは、そのぶさいくで年取った犬のような、よく見ると愛らしい顔、小さな目に泣かされた。ちなみにこの「傘」のシーンは黒澤映画を思い出させた。