フロスト×ニクソン


映画の日新宿武蔵野館にて観賞。今年劇場で観た中で、一番面白かった。



ウォーターゲート事件から3年、辞任し沈黙を守るリチャード・ニクソンフランク・ランジェラ)に対し、英国人のテレビ司会者デビッド・フロスト(マイケル・シーン)がインタビューを申し込む。政界復帰をもくろむニクソンと、全米進出を目指すフロスト。「スポットライトが当たるのは片方だけ、敗者には荒野のみ…」


予告編からはフロストとニクソンの「一騎打ち」という印象を受けたけど、映画はインタビューの場やその内容にばかり重きを置いているわけではない。まず二人は当然ながら、背後にブレーンを抱えているから、男…というかおじさんがいっぱい出てくる類の映画といっていい。資金繰りに奔走するフロスト自身を含め、描写はさらっとしてるけど、各々が自らの目的のために行動する様が楽しい。
また、作中の当の二人がこだわっていても、映画自体は「勝つか負けるか」を重々しく扱わない。その軽いかんじがいい。


インタビューの後日、ニクソンを訪ねたフロストが「パーティを楽しめることは幸せだ」…から続くセリフを言われるシーンに少し驚いた。観ながらずっと感じてたことだったから。上に書いたように、この映画ではインタビューでのやりとりはさほど大きな意味合いを持たないし、私にはフロストがインタビュアーとして優れているのかよく分からず、これは、人好きがすることを(我知らず)武器に頑張った、負けず嫌いの「tv-show guy」が勝つ話だなあと思っていたからだ。
(しかし作中のニクソンは「勝ち負けに関わらず、目的を持つことこそが人生を豊かにする」という考えの持ち主なのだから、負けたところで不幸には見えない)
ちなみに冒頭、機内でフロストが知り合ったキャロラインは「あなたは才能もないのに売れてるって話よ」と口にする。何気なく出たのか、反応を見たのか、いずれにせよ彼女は彼の才能や知名度ではなく、そのチャームに惹かれて行動を共にしていたように感じられ、そこのところが良かった。


フロストは、オリヴァー・プラット演じるジャーナリストやサム・ロックウェル演じるノンフィクション作家などと即席チームを組む。「a few friend」と誕生日を祝いたい、と言うシーンが可愛い。また、欧米の映画からいつも感じることだけど、「好き嫌い」や「なあなあ」に依らない付き合いが見ていて気持ちいい。


ケヴィン・ベーコン演じるニクソンの側近ブレナンの忠犬ぶりには(性的な意味で)ぐっときた。インタビューの後、彼の暮らしには何か変化があったんだろうか?
インタビュー前にブレナンとフロストが「言葉の定義」についてやりとりするシーンは、実際的な内容で面白い。交わされた「契約書」の内容を知りたいものだ。


この作品は、テレビ用のインタビュー(の撮影場面)を映画で描いているわけだけど、作中ふと、そのインタビューの単純な視聴者になることもあった。初日の、抽象的で一般的なニクソンの語りには眠気を覚えた。また、カンボジア問題の追及のために用意された映像に付けられた音楽は、陳腐でばかばかしく感じられた。既成のものを使ったのか、視聴者を意識したのか、「テレビは全てを矮小化してしまう」と理解しているジョン…テレビ側の人間であるフロスト達がああいうのを使うというのは、ちょっと面白い。


唯一の女性キャラクターであるキャロラインがらみで、とくに興味ぶかいシーンがなかったのは残念。靴を履くのが嫌いらしいところと、初めてニクソン邸を訪ねた際、窓からかつてのファーストレディを目にするところは面白かった。
彼女はフロストが生涯でおそらく一番必死になった時期に遭遇したのだから、そうそう、忙しい男に接するときってこういうふうだよなあ、というのを期待したけど、そういうシーンも無かった(私は忙しい男の人とは付き合わないけど…笑)
それにしても、もし日本なら、これから大統領(首相)に会いに行くんだけど来る?という誘いって、功を奏さないよなあ…(だって会いたいなんて、思わないじゃん?笑)