ホルテンさんのはじめての冒険


監督は「卵の番人」「キッチン・ストーリー」のベント・ハーメル。私はこの作品が一番面白いと思った。



舞台はノルウェーオスロ。運転士として働く67歳のホルテンさんは、駅のそばで規則正しいひとり暮らし。定年退職を迎える日、ひょんなことから仕事に遅刻してしまった彼は、これを機会と施設の母親を訪ねたり、ヨットを売り払ったり、精力的に動き出す。


まずは、特に前半など「乗り物映画」として楽しかった。
映画は電車の音で始まる。ホルテンさんは線路脇(駅の入口の脇)のアパート(寮?)に住んでおり、電車の走る音をバックに朝の支度をする。
彼の受け持ちは、オスロとベルゲンの二都市を結ぶ「ベルゲン急行」(ベルゲンでは電車がゆきどまりの所に着くのが楽しい)。オスロを出た列車はトンネルを抜け、雪の中を走り、トンネルに入り…ホルテンさんの日常のように延々と続いてゆく。カメラがホルテンさんの目線なのが楽しい。そしてラスト、トンネルを出た列車はもう、トンネルには入らない。ホルテンさんが制服を着ることもない。
他にも電車の部品を大写しにした画面(ラストシーンも可愛い)や巨大な駅の舞台裏、飛行場、路面電車、ヨットなどが出てくる。ホルテンさんの送別会の席で、仲間が「電車クイズ」に興じるシーンも可笑しい(笑)


邦題から私は、例えば「アフター・アワーズ」やキアヌの「ミッドナイトをぶっとばせ!」のような巻き込まれ型コメディのお昼間&おじいちゃん版だと思ってたんだけど、これはそういう作品ではない(原題は単に「O' Horten」)。確かに話はアクシデントによって進んでいくけど、ホルテンさんは自由の身だし(笑)自分の意思で行動する。
作中ストーリーが展開し始めるのは、ホルテンさんが送別会の二次会で同僚の住むマンションを訪れるが機械の故障で中に入れず、工事中なのをいいことに外の梯子を使って上階まで昇ってゆくくだり。このシーンが妙に幻想的で、異世界への入り口っぽくて面白い。


そして何と言っても、カンヌでパルムドッグの審査員特別賞を取ったという犬のモー!登場時からあまりの可愛さに頬がゆるんでしまった。ホルテンさんを起こしに主人に連れてこられた部屋での演技も素晴らしい(笑)
エンドクレジットによると実名同じ…ということは、カウリスマキ作品のように監督の飼い犬なのかな?


ベルゲンの小さなホテルが建つ高台からの風景、終盤にホルテンさんが望むオスロの夜景もとてもきれいだった。
ホルテンさんと思いを寄せ合う、ホテルのオーナーの女性も感じがいい。日本人には難しいけど、年とってあんな髪型にできたらいいなと思う。最後に着ていた水色のコートもすてきだった。出された夕食の中味が分からなかったのが気がかり…



「今日は目隠しドライブにうってつけの日和だな」