死のクレバス アンデス氷壁の遭難


死のクレバス―アンデス氷壁の遭難 (岩波現代文庫)

死のクレバス―アンデス氷壁の遭難 (岩波現代文庫)


(参考リンク→映画「運命を分けたザイル」の感想
届いたのは随分前なんですけど…やっとこさ、でも一気に読みました。意外と短い。
「実際に体験した」というのが、こんなにもチカラづよいことなのか。翻訳だから断言はできないけど、文章もうまい。
映画の映像も素晴らしかったけど(先日「ミーン・ガールズ」観に行った際に予告が流れて、また痺れてしまった)、文章だと、映画には描かれなかった…描けなかったことが満載で、とても面白かったです。それは何かというと、勿論、ジョーとサイモンの心境。事態が良くなったり悪くなったりするのにつれ、悪態をついたり笑いを抑えられなかったりと、コロコロ揺れる。訳者のあとがきにあるように「人間は実に生理的存在である」ことを感じる。
事故発生以後に重点を置いていた映画と異なり、原作では、クレバスに落ちるまでも結構丹念に描かれています。この登攀以前にジョーが経験した「宙吊りでの12時間」(寝てたら落ちた)や、サイモンが目撃した「クレバスに滑り落ちてゆく日本人」の話なども書かれてる。

ひとつの夢を実現すると、もうそれは済んでしまったことになり、じきにまた次の、もう少し難しく、もう少し望みの高い…そして危険性も増す目標を心に思い浮かべ始める。最終的に私がたどりつくのはどこなのか、などと考えたくはない。論理的必然として恐ろしい結論を導き出すように思えるからだ。

(頂上写真を撮った際のジョーの心境。ここを引用したのは、他の心境告白は、彼等の状況と共に読まないと面白くないけど、この部分なら取り出しても分かりやすいから)


映画には出てこなかった二人の食事は、ほとんど毎回「チョコレートと果実ジュース(お湯を沸かして作る)」程度。穴掘って休むだけのハードな登山ともなれば、そりゃそうか…
それから、ジョーはコンタクトレンズを使用していたとのこと。骨折した際「涙でコンタクトレンズがずれ」、その後「二日二晩、外すことができなかった」こともあり、クレバス群を抜け出したところで雪盲になってしまう。考えただけで痛い。
また、映画では、助けられて最初の明確な会話は「オレの服を捨てやがって!」でしたが、実際は、驚きや質問の嵐が飛び交ったよう。それから、あの脚で、ラバに乗って町まで2日間揺られたとか…
ああもう一回映画観に行きたいなあ。