カムバック!



製作総指揮・原案・主演ニック・フロスト、原題「Cuban Fury」。
都内の上映は渋谷でのレイトショーのみなので、「独占上映」している川崎のチネチッタに初めて足を運んだ。施設内で最大のスクリーンサイズで見られて満足。


25年前、サルサの天才少年が踊るのをやめた理由は「ホモソーシャル」に押し潰されたから。同年代の少年の集団に、きらびやかな衣装や靴を「バニー・マニロウかよ!」と罵られ暴行を受ける(「スパンコールを口に押し込まれた」)。傷ついた彼はコーチ(イアン・マクシェーン)に「サルサは女(pussy)のやることだ!」との叫びを残してシューズを脱いだ。
そこから時が止まっていたブルース(ニック・フロスト)が、女性に一目惚れしたことを切っ掛けに自身を立て直す。「部屋に鏡が必要だな」「僕はブルース・ギャレット、ダンスを学びに来ました」などのセリフに涙がこぼれそうになってしまった。


「現在」でもブルースは職場でホモソーシャルな嫌がらせを受けている。それを体現するのが上司のドリューを演じるクリス・オダウド。近年の映画じゃフェミニストの役が多い彼だけど、ここまで「悪役」として、笑いでもって描かれると全然むかつかない。「彼女の緑の服を見ろ、俺に何かを伝えようとしている」からの緑のパンツ!が可愛い。「lovely legs」も見られたし。(サルサには邪魔なだけの)「胸毛」は本物かな?
傍若無人なドリューの言動に対し、女性社員はにやけ、憧れのジュリア(ラシダ・ジョーンズ)も始めの内きっぱりとは拒否しない。そういうもんなのだ、私だってこのクリス、どういうセックスするのかな?などと思いながら見ていた。男二人も「美女」ゆえラシダに惚れてるわけで、人間そんなもんでしょ、というところがよかった、上手く言えないけど。コーチの「俺だっていじめられてたんだからめそめそするな」も、ブルースがドリューを「女性」扱いして溜飲を下げるのも、そういうもんなのだ。


ニック・フロスト本人が踊っているダンスシーンの数々が楽しい。「岩陰」や「夕陽」(「昼休み」なのに!)が彩る決闘ダンスが見もの。べジャン(ケイヴァン・ノヴック)に連れて行かれたクラブの描写は、「ダーティ・ダンシング」の従業員達のパーティや、踊りは違えど「タイタニック」の3等客室のパーティに通じるエネルギッシュな魅力に満ちている。大きな違いは、「現代」だから階級は関係ないということ。べジャンは「サルサ・エアロビ」をコケにするけど、当人達は意に介さず踊り続ける(笑)
ラストの大会で、決勝戦を終えたブルースに対し、コーチが「あなたの『庭』に入っていいですか?」と声を掛ける。これは冗談混じりというわけでもなく、「そこ」に立つのに必要なのは、ものを学ぶ努力と、それから多分、コーチがずっと言ってきていた「心」ということだろう。


お約束の80年代映画ネタが幾つか。ジョンキューを権威とする(笑)「ミックステープ」なんて小道具が出てくるのは、主人公の時が「25年前」で止まっているからかなと思ったけど、ダンス教室の女性も車を運転するジュリアもカセットテープを使っているので、判断できず(プリウスカセットデッキが設置できるの?「愛しのタチアナ」でカセットデッキの上から無理やりレコードプレイヤーを付けていたような力技とは違って見えたけど・笑)
それから、イラン人のべジャンの登場シーンで、あっフィジー・バブレフ飲んでる!と思ったら、「特製」ファンタだった(フィジー・バブレフとは愛する「エージェント・ゾーハン」が手放さない中東の飲み物、実在しない…けど、あのファンタみたいな味かな、と想像した・笑)