マテリアリスト 結婚の条件


(以下「ネタバレ」しています)

ルーシー(ダコタ・ジョンソン)がマッチメーカーにとって「宝の山」である結婚式場でふるいコーラにビールを差し出すジョン(クリス・エヴァンス)に再会してのハグが強烈だなと思っていたら、そこに答えがあった。振り返ると現代に疲れた彼女がふるさを体現する彼を求めていたのだと分かる。作中ウェディングシンガーのBaby Roseが歌うThat's Allとエンディングに流れるJapanese BreakfastのMy Babyにのみ日本語字幕がつくが、それがジョンのオファーとルーシーの返歌であり物語のテーマだった。愛はいつかは枯れるが今は咲いている花、あるいはルーシーがジョンに「売らないで、いつか道端で壊れるまで一緒に乗ろう」と言うボルボに例えられる。

「愛とは人生に降ってくる、どうしようもない、でも必要なもの」だというルーシーの信条が作り手のそれと重なっているようだと分かってくる後半で少し白けるも、『パスト ライブス 再会』(2023)が移民してから泣けなかった女性がまた泣けるようになるまでを描いていたのと同様、歯を食いしばって生きてきた女性が楽になるまでを描いているのは面白い。前作のアーサーはノラの夢にふさわしいだろうかと自問しながら、今作のジョンはルーシーに価値をはかられていることを意識しながらやっていくことになる。男の方が多くを負って関係を支えるわけだ。ジョニー・サンダースのYou Can't Put Your Arms Around A Memoryからの作中唯一の回想シーンは、当初二人の別れの理由に見えるが、最後にはあれでもよいという判断の拠り所になる。

ルーシーは自身が夢見る「原始の結婚」から現在までに広がった愛と結婚の間の溝を埋めているつもりでいたが、そこに悪が存在していた、つまり自身が悪に加担していたことを思い知る。「デート専門家」が密室での性暴力の危険を考えたことがないなんておかしな話だが、それほど「項目」には目が眩まされると言いたいのだろうか。被害者であるソフィ(ゾーイ・ウィンターズ)に「(加害者が逃げおおすのを)あなたが許さない」とは随分じゃないかと思った。作中の女達に友人がいないのは商品同士は友だちになれないということだろうが女達は女同士の繫がりを求めている。冒頭と終盤のルーシーのハグはそんな矛盾の中を生きる同志へのそれと言える。愛はコントロールできないから嫌いだと背を向けるハリー(ペドロ・パスカル)にそっとあてる手も。