大人の人生


イタリア映画祭にて観賞、2025年グレタ・スカラーノ監督作品。『山逢いのホテルで』(2023年スイス・フランス・ベルギー)『私のすべて』(2024年フランス)などは障害のある息子を一人つきっきりで育てる母親が生き方を見直す話だったが、これは「面倒を見るために呼び戻された」妹と自閉症の兄が新たな関係を作っていく話である。実話が元とのこと。

イレーネ(マティルダ・デ・アンジェリス)が「20年前に死ぬ気で飛び出した」リミノの実家の自室にそのままだったジョークノートの表紙の絵から、その見事な赤毛が意思によるものだと分かる。それは兄オマル(ユーリ・トゥチ)がベッドの脇に置いて離さないきーきーうるさい扇風機の羽根の色、壁紙の木の葉の色、勝負服の色、二人の色だ。

両親や祖母姉妹がめいめいに喋る食卓でオマルだけが黙っているのは、誰も話を聞こうとしないから。母親に「テレビが好きだから」と言われる横顔にその諦念が表れている。歌手志望の彼が夜な夜な出かけるタレントショーが売りのクラブに「自閉症の人ばかり」集まるのは自分を出す場を奪われているからかなと思う(友人の「田舎のくそさ」を歌ったラップも聞いてみたかった笑)。帰り道のオマルは「で、どうする?」と訊ねたイレーネ相手に3時間喋り続ける。

妹から兄への関わりは、管理、命令から彼が「自分らしく」した事へのアドバイスへと変わっていく。そりゃあ女性の誘い方からメールの文面まで直したら彼の恋ではなくなってしまう(仲間のセクハラ発言にはそうと指摘する場面により、「何でもあり」なわけではないと分かるようになっている)。自身の本音を明かし、見習わなきゃとも思うようになる。私も好きなことをやらなきゃと。

オマルがステージで「いい耳がほしい…バックトラックさえあれば音を外さない」と歌い始めるとピアノ奏者が笑顔で合点して演奏を始め、確かにすっと歌の音程が合い、ドラムも管楽器も入ってきて皆による生の音楽が作られていくのがすてきな比喩のようで素晴らしく楽しかった。