
キース・ジャレットの『ザ・ケルン・コンサート』が録音された公演の立役者だった当時18歳のヴェラ・ブランデスに初めて光を当てた作品…と見始めたら、登場するのはスザンネ・ウォルフ演じる50歳のヴェラ。計算しても「今」ではないし何故と見ていたら、娘を失敗作だと貶す父親(ウルリッヒ・トゥクール)に「あなたにとって失敗作なら、私は正しい」と告げるパートが過去を包むという構成だった。大戦中の苦労から次世代に固い人生を強いる父親に実際には言えなかった言葉なのかもしれないと勝手に想像した(最後に本人も登場するのでやりとりの上で作られたのだろうから)。
ヴェラ(マラ・エムデ)は「初めては忘れない」と言うが、前半は彼女の初めてが連鎖的に続く。クラブでロニー・スコット(ダニエル・ベッツ)に粉をかけるとミュージシャンから初めてセックスじゃなく公演の手配をもちかけられる、実際に仕事してお金を手にする、ベルリンでキース・ジャレット(ジョン・マガロ)の演奏に出会って涙する、父親に殴られ泣いて戻ると金のためか、お前は娼婦だと言われる、母親(ヨルディス・トリーベル)と「約束」をする。
それから記者マイケル(マイケル・チャーナス)を語り手とする、キースとプロデューサーのマンフレート・アイヒャー(アレクサンダー・シェアー)のパートに移る。小さな車で夜通し運転のヨーロッパツアーだなんてとの問いに、ここには商業じゃなく芸術がある、アメリカと違って聞く人がいるとキースは答える。ヴェラと親友イザは人工妊娠中絶合法化デモに参加し、彼氏や友人とは親世代の押し付ける「労働」からどう逃げるかばたばたしていたが、移動中のキースが車から降りてただ自然の音を聞く姿に、ここから音楽が生まれてお金になっていくのが奇妙にも面白くも思われた。
キースの登場からコンサート当日のイザの「完売!」までずっと同音連打が響いている…つまりその間、飛翔はない。「これが世界最後のピアノでもキースは弾かない」からの数時間には胃が痛くなりそうだった。しかしヴェラは絶体絶命、キースは体調最悪でもこの映画は笑える映画である。コメディ調だからとか笑うしかないからとかいうんじゃなく、何とも言えず可笑しい。その最高潮がヴェラがキースの部屋にほぼ押し入って「あなたは甘えてる、私は新境地を提供する」なんて言葉で説得する場面。笑ってしまったが振り返ると比喩的にも思われた。