
カザフスタン映画祭にて観賞、2022年アイディン・サハマン監督作品。カザフスタンの国民的バンド、ドス・ムカサンの設立からの数年間を主に描いた伝記映画。
ソ連の共和国から工科大学の学生が集まっての建設工事。カザフのとある若者は出がけにビートルズのレコードを買い「これで皆の心は一つ」と意気込むが(1967年にTwist and ShoutやYesterdayをあげている)、レコードプレイヤーが無いので日本では『森へ行きましょう』と知られているあの歌を仲間と歌う。「なぜあなたもこの歌を知ってるの?」「ぼくの国にもあるんだ」とのやりとりの通り、確かにこの音楽に国境はない。一曲ほぼ丸々ぶんのこの場面は、後の文句「歌と器楽のアンサンブル・バンド」が納得の楽しさだ。
その場にいた誰かが彼らの名前の頭をとって「ドス・ムカサン」と名付け勝手に告知を張り出しコンサートが開かれる。帰ってみればなぜ芸術祭に参加しないんだ?とあれよあれよとバンドが転がっていく。自分達では何も決めない、決められない。婚約パーティの部屋の幕を開けるとコンサート会場、といった舞台やミュージカルめいた非現実的で流麗な演出に奇妙に合っている。作中では彼らは抵抗するでもできるでもなく、大学ひいては共産党の管理の元で活動を続ける(ただし髪を切らない、ロシア語の歌を録音しないという意志は通す)。その音楽は大衆を踊らせる、端的に言って人の体を動かす力があるということが言葉でも映像でも繰り返される。
「上の者が何でも決められる」というのでドス・ムカサンは学生ながらモスクワで開催されるプロ音楽家演奏大会に出場することになる。ここへきて、大きな存在に対抗するのに小さな存在がまとまることは必要だがその中での抑圧もある、とでもいった問題がかすかに現れる。レーニン宮殿の「ドアがぼろかった」ために群衆事故が起き少女が怪我をしたというのは事実なんだろうか。病院に横づけした車を見たメンバーが「父親は誰ですか」と聞くのが心に残った。この事故により降格させられた同志がKGBに「密告」しボーカリストが出場できなくなるが…というのがいわゆるクライマックスだ。
メンバーが女性と歩いていると「美人だね、男の方はぶさいくだけど」とか何とか今でいうキャットコールをされ、それを知った仲間が全員飛び出して行ってそいつらと大乱闘…というのが女性の扱い。作中では女性のメンバーは歌い手ばかりだったけれど、エンドクレジットに示された実際の写真ではギターを抱えている女性がいたので演奏姿も見たかったなと思った。