バタフライ


フィンランド映画祭にて観賞。2024年フィンランド、アンナ・ブロトゥキン脚本、イェンニ・トイヴォニエミ監督作品。

監督からのメッセージ映像の「フィンランドのテキサスと言われるセイナヨキに撮影当時とても影響を受けた」にどんな場所かと見ていたら、父ペトリ(ヤニ・ヴォラネン)がガラスの曇った車内に登場するのに始まりカメラが映す範囲は狭く、よく分からない。しかし一大イベントであるタンゴフェスティバルの会場の白い仮設テントの中に、カウリスマキファンなら映画といえば、まで思うSatumaa(『マッチ工場の少女』でレイヨ・タイパレが実際に歌うあの曲)が丸々流れ、タンゴにカラオケ、ユーモアに恋と、映画という狭くも豊かな窓から私が見てきたフィンランドの全てがあり心掴まれた。その後は娘と父それぞれの、あるいは一緒の世界が広がっていく。

主人公シーリ(アクサ・コルッティラ)がドタドタ歩いてくる登場シーンから、いつも抱えているクソでかバッグ(私の仕事鞄も職場一ってくらいでかい)、パスタを食べる低いテーブル、脱ぎ着の厄介なタートルネックと、「堅物でダサい」と自虐する彼女のキャラクターを喜劇調に表す小道具のベタな使い方が楽しい。医者の前で下着姿になるが…ワンピースなので下もパンツになるが…気付かなかったが相手が同級生だったとか、裸に近い体も(男性が主人公の映画のように)コメディ的に見せる。

タイトル「バタフライ」の意味は段階を踏んで分かる。懐かしいその名の曲を二人は車内で歌う(「ソロ」が可笑しい)。それは父の抱いていた娘のイメージであり呼び名だったが、娘の方は嫌がっていた。長い時間の後に再会しぶつかり言いたいことを言い合うと、父がその呼び名を付けた、家を売ってまで買った走れなくなった競走馬はほの明るい原っぱに意図せず放たれるのだった。ロマンティックコメディが運良く気の合う相手と知り合う話なら、これは久しぶりに会ってみれば父親こそ一緒にいて一番リラックスできる同志だったという話なんである(性的要素は勿論ゼロというかマイナス)。案外こういう映画ってないから面白く見たし、どこへ向かっているか分からない道をゆくラストシーンもいいと思った。