大統領暗殺裁判 16日間の真実


チョン・インフ(チョ・ジョンソク)のパク・テジュ(イ・ソンギュン)への「どうせ歴史に名前が残るのはキム部長だけ(なんだから方便で自分の命を守れ)」と『ハルビン』(2024)でのキム・サンヒョン(チョン・ウジン)のウ・ドクスン(パク・ジョンミン)への「ぼくらの名前は日本の歴史に残らない」は、文脈こそ違うが近年の韓国映画が何を描いているかを表している。『ハルビン』のテーマが英雄の影の幾多の命だったように、この映画も歴史を語る際に見過ごされる存在を訴えている。チョン・インフが裁判長(キム・ボプレ)に幾度も渡る「メモ」に飛びついて「裁判を台無し」にし、「大先輩に失礼だぞ」と同僚(イ・ヒョンギュン)に諌められながらも弁護団長(ウ・ヒョン)に食ってかかるのは、キム部長の他は切り捨てられるのか、歴史から消されるのかという怒りからである。

「命令に従っただけ」と主張すれば極刑を免れることができるとチョン・インフが気付いて喜んだところで、そうではないのだとようやく口を開いたパク・テジュがオープニングの事件映像からは読めなかった内心を明かす。「釜山のデモが思い浮かんだ、殺すことで大勢の命を救えると思った、自分の選択だ」、後には「内乱とは(いまだ言われるようなものではなく)街に戦車を走らせることだ」と。国と家族を守れると彼が信じていた頃と軍の意味は全く変わってしまった。当初は軍人は奇妙だな、程度の認識で苦笑していたチョン・インフが合同捜査団長のチョン・サンドゥ(ユ・ジェミョン)と対峙しその手口に晒されるうち人を殺すほどの暴力性を思い知り激怒、膝を折って嘆願までする姿は、権力を面白がって消費するな、笑って済ませるなと私達に警告しているようだ。

「お前の娘は可愛いな」と赤い文字で書かれた脅迫状に弁護団を降りると泣く仲間を後にして帰るチョン・インフの心は「普通はそうだよな」であろう。パク・テジュと同類の、「自分さえ潔白なら家族は二の次」だった父親、あるいは「パク秘書官の気持ちは分かります」と述べる、軍人ながらおそらく同じように自分の考えを持っている参謀総長随行副官(パク・フン)などを映画独自のキャラクターである(モデルはいるそうだけど)主人公の周囲に配したのは、彼らの生き方を肯定するため、同時にもう誰もそうした事態に陥らないよう観客に不断の努力を求めるためかなと考えた。