
アイルランド映画祭にて観賞、2024年アイルランド、アン・マッケイブ監督作品。
大好きなパパとのお約束のやりとり「今日の最高と最悪は何だった?」を主人公モリーは一人でもし続ける。パパが昏睡状態になったあの日の最高は家族でビーチで過ごしたこと、でもずっとビーチにはいられない…と物語が始まる。ビーチからの交通事故を経て向かうのがパパが眠るリハビリ施設で、少女は否応なしに新たな世界で新たな人々に会うことになる。
『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』(感想)にも見られたことに、子どもや老人が守られているのは親や子など他者の都合で自由を制限されているのと表裏一体である。この映画にはいわゆる病院脱出ものの一面もあり、モリーと弟ジャック、青いフィドルを弾く老人マラキーは彼の息子が売らんとしている船で海を渡ってパブとコンテストへの旅をする。前者については同映画祭で2021年に閉店した「ヒューズ」についてのドキュメンタリー『あるパブとの別れ』を見たばかりなのがよかった。ミュージシャン達の演奏に、姉弟もジュースを出してもらって参加する。店の前で演奏する二人を警察に突き出すおばさんが作中唯一の悪役のように描かれていたのは、「2016年からの法律」に対する作り手や一般市民の感情が表れているんだろうか。
弦楽器を構える際の何とも言えない、音源には収められない繊細な音や、「弦が切れる」というトラブルは、とりわけ映画などで接すると他の類の楽器にはない感情を呼び起こす(ピアノや管楽器にはそういう緊張感は覚えない)。弦が切れればパパが張り直してくれていたのを弟の助けを得て自分でやれるようになる。輪廻や血の繫がりといった概念とは違う、途切れることのない文化の継承が描かれていたのがよかった。