
監督が祖母との実体験を元に撮ったという本作の主演は93歳のジューン・スキッブ。前日『ブルー・ロード エドナ・オブライエン物語』で同年代のエドナのインタビューを見たところだし、オゾンの『秋が来るとき』やドラマ『天国より美しい』の「80歳の主人公」(演じるエレーヌ・ヴァンサンやキム・ヘジャの実年齢もほぼ同じ)が全然若く感じられる。舞台がエンシノというのを始め、90超の元気な老人がベッドなどを乗り越える動きがスパイものでお馴染みのアクションのスローモーションに見えるのや次々現れるウェブ広告が最後の障壁というのが面白かった。
1万ドルを盗んだ犯人のところへ乗り込むテルマ(ジューン・スキッブ)の行動原理は「私のものを返せ」なのだから、『リボルバー』のチョン・ドヨン演じる主人公と同じ。ステイサムが隣の老婦人の敵を取る『ビーキーパー』よりも清々しい(ああした詐欺は大抵は個人では立ち向かえない組織的な犯罪なのだろうから、ある意味ではそちらの方が「現実的」かもしれないが)。テーマの一つ「助けを求めることも大切」には、テルマに影響を及ぼすトム・クルーズもアクションはスタントマンに任せればいいのにと思ってしまった(これについても、本作のアクションはスキッブ自身が行っているそうだけど)。
亡き夫ぐるみでのつきあいがあったベン(リチャード・ラウンドトゥリー)とテルマのやりとりが心に残る。「おれは妻に食事を準備してもらい靴下を拾ってもらってた、頼ることは恥じゃない」「私は違う、靴下を拾ってた側だから」。男性は助け合う習慣がないので歳を取ってから孤立しやすい云々と言われているけれど、ここではそれを学んだ男が助けることが人生だった女に教える(ただしテルマは夫との人生をよきものとしている)。テルマが彼や旧友のモナを訪ねるのが利己的な理由からというのも、そうはいっても顔を合わせれば仲間意識が、共に行動すれば友情が芽生えるというのもいい。年寄りと見れば知り合いかもと共通の知人を見つけようとする場面には笑ってしまった。
孫のダニエル(フレッド・ヘッキンジャー)はテルマを心配し一人で出掛けないよう頼むが、やがて彼自身が両親、すなわちテルマの娘で精神科医のゲイル(衣裳がすてきなパーカー・ポージー)とその夫に同じように「私の安心のため」とバンドを付けられる類の管理をされていることが分かる。どちらも子ども扱いされているわけだが、祖母の方は「あなたがどこへ行っても心配しない」と孫を信頼しているところに長く生きてきた者の心の大きさが表れている。ラストシーンでのダニエルの「死んだら寂しいって、生きてるうちに伝えたい」とはおそらく監督の気持ちのこもった、素直ないいセリフだなと思った。