ロイヤルホテル


旅先のオーストラリアの夜、君はスウェーデン人?君はフランス人だよね?と(実際はどちらもそうでない)ハンナ(ジュリア・ガーナ―)とリブ(ジェシカ・ヘンウィック)が男達に声を掛けられるオープニングは、ここで知り合ったトルステンが砂漠の果てのパブまで来たかと思えばそこの男達にすぐさま染まり、ハンナを「不機嫌なカント」呼ばわりするのに繋がっている。女がやっと得たものなどすぐ押し流されるという恐怖がここにはある。リブが「嫌なことから逃げて来たのに」と言う通り、どこへ行っても女に世界は地獄であった。先住民の女性キャロルとつがっているパブの店長(ヒューゴ・ウィービング)がいつものように酒に溺れた挙句お前を不幸にしてすまないと悲嘆に暮れる姿には、男はこんなにも取返しのつかないことを女にしてのけるというのがリアルでむかついてしまった。尤もキャロルこそ周囲から目を逸らして星空を見るのをやめ最初にその地を出て行くわけだけど…ただし彼を抱えて。

黒人にとって現実がホラーだという例の文言をまた思い出させる…話が少し逸れるけどこれってスタンダップコメディにも通じるよね、マイノリティの日常って多分「笑える」ことばかりなんだから…いわゆるフェミニストスリラーで、現実をうまく組み合わせた見事な出来だけど、あまり私の好みじゃなかった。例えばTwitterで時折目にする、ぶつかりおじさん同士が戦って消滅すればいいのに的な感覚を思い出させる一幕がいわゆる大オチの前に使われており、それゆえオチに至ることができるわけだけど、ああいうの好きじゃないから(といってそういうの皆無の監督の前作『アシスタント』もそう好きじゃなかったけど)。

多少なら、同士で顔を見合わせることで何とか乗り切れる。始めの頃のハンナとリブもそう。しかし廊下まで侵入してきたやばいおっさんを前にハンナが部屋に鍵を掛けて防衛する時、リブはすっかり酔って寝てしまっている。一人で立ち向かわなきゃならないのに加え親友を守らなければならない、この恐怖の描写は、顔を見合わせるどころじゃなくリブの前髪が大きく垂れて目が隠れているというホラーめいた演出も含め秀逸だった。ちなみにリブがお酒を飲みまくるのは嫌なことから逃げて来たのになお嫌なことばかりだから、「母はお酒を飲んでいた」というハンナが自身はあまり飲まないようにしているのは特にそうした類の女の飲酒に更なる被害がつきものだと知っているから、ここに二人の齟齬があるように私には思われた。