存在しない南


イタリア映画祭のオンライン上映にて、今年の上映作『あなたのために生まれてきた』(感想)がとてもよかったファビオ・モッロ監督の2013年の長編デビュー作を観賞。祖母が17歳のグラツィア(ミリアム・カールクヴィスト)に向かって言う「南部なんて無意味だ」が邦題の意味。続けて「でもあなたは違う」。若者が南部の問題を打破していく話、私はもう黙っていないからあなたも黙っていないでという話である。

父親(ヴィニーチオ・マルキオーニ)は家を訪れたマフィアの弟に「トリノに身内がいるなら家と店を売って出て行きな、娘が卒業したら」と暗に売却を迫られる(後には仕入れも止められる)。別居の祖母も含めた家族三人の時間は止まっている。家長である父が息子=グラツィアの兄ピエトロを銃撃で殺された事実を認められず、家や店に愛着を持ちながらも言われるままに経済的に豊かな北部へ越すか否か決めかねているからだ。祖母は「いつも会っている」、父は「会わない」、死んだピエトロは相手の意向に沿ってその前に現れる。誰からも何も教えられず相談もされない子どものグラツィアには自分の意思で会いに来る。彼が実際に現れるふうに描かれるのには、オカルト風味というより被害者をむざむざ死なせないという気概を感じた。

始終眉間に皺を寄せているグラツィアが破顔一笑するのが、日本的に言えば的屋が家業でイタリア中を回っているカルメロの「君が怪我したんだからぼくも怪我すればおあいこだ」なんてあまりに屈託ない一言。学校で「ちんこがついてるんだろ、見せろよ」と男子達に嫌がらせを受けているところから、グラツィアが男でも女でもない存在とされ差別を受けていることが分かるが、自身の認識ははっきりしていないように見える。それが「君は女でぼくは男」などとにこやかに言う彼に心を開いて親交を、性的にも深めていく。外見などは変わらないのが重要で、映画はグラツィアがいわば「ありのまま」で浮上するのに終わるのだった。