ザ・パーソナルズ 黄昏のロマンス/予備選挙


「アカデミー・フィルム・アーカイブ 映画コレクション」にて短編二本立てを観賞。

▼『ザ・パーソナルズ 黄昏のロマンス』は伊比恵子監督・編集の1998年製作作品。ロウアーイーストサイドのユダヤ人コミュニティセンターの演劇クラスの活動を追ったドキュメンタリーで、60歳から90歳程の参加者が自ら書いた「異性の交際相手を求める新聞広告」を講師と共に演劇に仕上げていく過程と、彼らがカメラに向かって自身を語る姿が交互に挿入される。

演劇『ザ・パーソナルズ』は観客を「ファニーな気持ちにさせる」ことが目的でスタンダップ的な要素もあるので、立てない、あるいは立ちたくない出演者が座って喋る姿に『そしてバーバラはアランと出会った』(2022)の冒頭、二分脊椎症のルース・マデリー演じるコメディアンのバーバラ・リシキが車椅子で登場しての開口一番「スタンダップだけど…」を思い出した。「笑えない役はやりたくない」と不満を言う者、セリフを勝手に変更する者、講師が言葉から動きまで指導するとその場で見事に分かりやすくなり本番でも功を奏している様子なんて面白い。

サックスの調べによる、「ファニーな気持ちにさせる」のが目的であろう劇伴は私にはそれこそバーブラが映画によく出ていた時代を思わせたけれど、実際は当地でジェントリフィケーションが進み始めていた20世紀末期。彼らが「病院の予約も入れず」楽しみに通う講座は予算削減で次期から打ち切られることとなる。お金を出し合って続けようと話し合うもまとまらないのは、皆貯金もそうない年金暮らしだから。ある女性は7500ドルもらって4000ドルが家賃で消えると言う。

Netflixスタンダップは客席が映ってどんな人がどう楽しんでいるかを見られるのが面白いものだけど、『ザ・パーソナルズ』の本番時の映像でも乗り出さんばかりに観劇する同年配の人々の姿がよかった。続けて見た『予備選挙』もステージで話をする人を捉えているという点は同じで、ジョン・F・ケネディとヒューバート・H・ハンフリーを迎える人々の様子が見どころ。考えたらそりゃそうだ、それこそが運動の目的であり成果なんだから。

予備選挙』はロバート・ドリュー脚本・編集の1960年製作作品。上映企画の公式サイトにあるように「記録映画の潮流『ダイレクトシネマ』のアメリカにおける発火点」ということで(ナレーションが付いているのは報道が目的だから?)、「行脚による売り込み」の話でありハンフリーを乗せた車の後ろ姿に終わるということもあり、本作に参加しているA・メイズルスらの『セールスマン』と結構かぶった。

民主党の人は普段撮らないんだけどね、興味はあるよ」と話すカメラマンによるケネディの撮影の様子に政治家の写真はこのようにして撮られる(こともある)のかと思っていたら、場面変わってハンフリーの宣伝車の写真が大写しになる…といった露骨な演出が結構あり面白い。人々が集まって来る街頭での様子には、女性に参政権が無かった頃のこうした運動はどういうものだったのだろうかとふと思った(ちなみに投票時の人種差別を禁じた投票権法の成立は本作製作より後の1965年)。家族によろしくと子どもに言うような感じで女性に接していたんだろうか。