ピンク・クラウド


群像劇だと思い込んでいたのが、見てみたら「インドの結婚」をしたジョヴァナ(ヘナタ・ジ・レリス)とヤーゴ(エドゥアルド・メンドンサ)という一組の男女の話だった。もうちょっと踏み込むなら、生身の人間と人間がいれば、オンラインではそうはなかなかならないであろう色んな可能性があり得るという話とも取れる。

序盤の「子づくり」についての会話が「(女)自由でいたいと思って悪い?」「(男)君はこの状況下で自由なのか」と実に古めかしい、昔なら面白かったかもねという観点で終わるところ(妊娠出産するのは女だということに微塵も触れないところ)に違和感を覚えながら見ていたら、全編を通じて政治的な視点が不自然なくらい無かった。こういう状況では人から属性が失せるという展開でもないから、冒頭の「ホームレスの人達は避難できたのか」というセリフやジョヴァナの妹の友達の父による性加害という問題がそのまま放り出されているのが、わざとなんだろうけど単なる無責任に映ってしまった。

始めに出る文にあるように「2017年に脚本が書かれ、2019年に撮影された」本作は、私には、コロナ禍の前にこんな話を!というよりもコロナ禍を経験したために余計現実と重ねて納得できなくなってしまった作品だと言える。例えば「閉じ込められての妊娠出産」をあんなふうに描くなんてと。ジョヴァナの親友が憎しみを向けるのが国などでなくまず雲だというのも、コロナ禍を経験した身としては奇妙な感じを受ける。そうじゃないところ、政府に目がいかないような設定にしたところがSFなのか、いや設定そのものよりもどこを照らすかがSFなのだと思わせる。