パーム・スプリングス


サラ(クリスティン・ミリオティ)とナイルズ(アンディ・サムバーグ)が揃いの服でバーに飛び込み踊る姿に、私は近年映画を見ながら「誰かと付き合うって自分達を世界から閉ざすんじゃなく世界に向かって開くってことなんだ」とよく考えるんだけど、この場面の二人はその真逆だなと気付いた。自分達だけの世界に閉じこもったんだと。

箱の中で正気を保ってやっていくには、そりゃそうするしかない。火を前に「現実か否かなんてどうでもいい」あるものを見るのがその頂点で、自分の指を相手の指にすっと絡ませたサラはナイルズにまたがる。でもその後、それじゃあだめだと考えて広い世界に戻ろうとする。彼いわくの「全てが無意味」と「でも全てが無意味じゃ困る(二人の関係には意味を持たせたい)」なんて両立し得ない、二人の関係は世界と繋がってるんだからというわけだ。

…というのは私に寄せた見方で、もっと単純に解釈すれば、これは二人が「家族の除け者」(序盤のやりとり「私は除け者なの、酒飲みで尻軽だって」「根拠はあるの?」「実際そうだから」が良かった・笑)と「ミスティの彼氏」という立ち位置から先の見えない道へ一歩を踏み出す勇気を育てる話である。それが重たいから、当初ナイルズはこのままでいい、箱の外に出るのは怖いと言う。

物語が進むと、舞台が結婚式であることが面白く思われてくる。一般的には、つまりここにいる多くの人にとっては結婚式が行われる日というのは特別な日であり、今日は今日しかないといつもより強く思って過ごしているんである。そうしたら皆の踊る姿なんてきらめいて見える。冒頭の、私達が見るナイルズの一日目の、ミスティの「汗かきたくないから」まで愛しく思われてくる(汗かきの私は元よりこの気持ちがよく分かるけれども)。

(以下「ネタバレ」です)

エンディングにおいて、私達はアロハシャツじゃなくタキシードを着たナイルズに初めて会う。彼は初対面のロイ(J・K・シモンズ)にまず「ぼくはナイルズです」と自己紹介する。箱に入る前の彼はああして皆に名乗っていたのに誰にも名前を覚えてもらえていなかったのだと思うと、そんな世界に戻ることにしたナイルズの決意が大きく見える。加えて思い返せば、箱の中において一人きりになった彼がロイに会いに行くと、彼もまたナイルズの名前を知らなかった。そんな相手の元に毎日車を飛ばして復讐に出向いていたんである。そこから脱却したのだと思うと、ロイの決意もまた大きく見える。

(…と考えると、これもやはり、女は強いものだということに依った「男の映画」なのかな、とも思う)