ジャン・ヴィゴ特集


イメージフォーラムにて開催中のジャン・ヴィゴ監督特集にて、「ニースについて」「競泳選手ジャン・タリス」「新学期 操行ゼロ」「アタラント号」(全て4Kレストア版)を観賞。
カメラでこんなことをやってみた、あんなこともやってみたというようなデビュー作から数年後の最後の作品まで、この順に見ると空撮に始まり空撮に終わる。どちらのそれも素晴らしい。


「ニースについて」でバカンスに興じ眠りこける人々を茶化した後に挿入されるスラム街の映像は、「アタラント号」でパリに残された女が仕事でもと訪ねる先々の「採用なし」の張り紙や彼女の財布を奪った泥棒を追い掛けて取り囲んでやっつける人々の殺気などに続いているように思われた。
「新学期 操行ゼロ」が偉いさんの催事をぶち壊して「勝利した」と終わるのには、週末見る予定の「ブレッド&ローズ」を思い出していた。「勝った」と口に出して皆で確認するのが大事だってことも。



一番楽しかったのは「競泳選手ジャン・タリス」。他の作品でも少年や青年の顔が魅力的に撮られているけれど、ジャン・タリスが水中でこちらを見る顔のアップには特にわくわくさせられた。考えたら「映画」無き頃はそんなことだって体験し得なかったわけだ。「ニースについて」に続いて気になる股間も、まずはそれまで見られなかったものを見せてくれているのかもしれない(尤も「ニース」では明らかに意図的なのにあまりに執拗に撮られているため却って何だかよく分からなくなってくる)。
男を遠くから捉えた映像もいい。「アタラント号」の行商人が自転車で走る後ろ姿など、女のところに「来る」のに「行く」ように見えるのが面白く、やはり胸くすぐられた。


最後に見たのは「唯一の長編劇映画であり最後の監督作」の「アタラント号」。女(ディタ・パルロ)は村の出身、対して結婚相手の男の縁故者は居ない、どこの者かといえば船乗りである。村を出る舟の動きに逆らってのろのろ歩く女と、それを止めるかのように船尾に立つ老水夫(ミシェル・シモン)。その後に男が女(こちら)の方へ舟の上をやって来る映像に胸踊らされる。
「頭を丸めたのか」からの「犬の床屋」や、女が戻ってくると分かり慌てて身支度する男が脱いだものをいつものクローゼットに放り込むなんていかにも可笑しい描写の数々には今の映画との繋がりを強く感じた。