キャプテン・マーベル


(以下少々「ネタバレ」あり)

映画はヴァース(ブリー・ラーソン)と彼女に「疑念、感情、ユーモア」を持つことを禁じる司令官ヨン・ロッグ(ジュード・ロウ)に始まる。女が自分よりも下にいる限りは有効に使ってやろうというこの男、最後に手を差し出されて自らも伸ばす姿に「仲直り」して「元に戻る」ことが出来ると考えているのが透けて見え、何て呑気な恥知らずだと思う。尤も冒頭の二人の様子には確かに楽しさも感じられ、結末を踏まえても、彼の方こそ彼女によって幾らかのいわば遊びを与えられていた、救われていたのではないかと考えた。
それと対照的なのが初対面時から諧謔あふれるやりとりを交わすキャロル・ダンヴァース(ラーソン)とフューリー(サミュエル・L・ジャクソン)。部下のコールソン(クラーク・グレッグ)について「命令より直感を信じた、それが人間らしさだ」と話す彼は、勿論!彼女に対してもそれを適用する。コックピットにあふれる笑い。

この映画で素晴らしいのはラーソン演じる主人公の顔である。これまでなら女のこんな顔、ましてやスクリーンでなんてと封じられていた「普通」の表情ががんがん見られる。まず楽しいのは逆さ吊りに始まるスクラル人との一戦で、声で威嚇されれば威嚇し返す、邪魔な物が取れれば歓喜する、昔の漫画なら「ふんがー」とセリフにありそうで全てが最高に楽しい(まあベン・メンデルソーン演じるタロスが言うように「二十人を倒し(殺し)」ているわけだけども)。
地球に落ちてきてほどなく中年男性に「Smile for me」と言われるくだりは本作の最重要シーンである。てめえに見せるための顔じゃない、奪い返して走り出せ。

それにしてもアメリカ人はパイロットというか空軍が好きだよなあと思いながら見ていたら(イアハートのコスプレからも分かるように、女にとって空を飛ぶことにはそれ以上の意味があるわけだけども)、仲間のマリアが「あなたは人命が救えるならと出て行った、あの時にヒーローになった」とヒーローの何たるかを教えてくれる。彼女のこの映画での補助線ぶりはあまりに強力で、時に笑ってしまうほどだ。
「人類のオス、危険度ゼロ」と判定されたフューリーがマリアの方を見て「壊れてるんじゃないか?」と言うところでふと、そういやこの二人は同じ「人種」だと気付く。種類が増えれば増えるほど、誰が何でもどうでもよくなる。やっぱりそういうのがいい。