純金のキャデラック/イントゥ・ザ・ホワイト


特集上映「サム・フリークス Vol.1」にて「はみ出し者映画」二作を観賞。組み合わせも良くとても面白かった。



▼「純金のキャデラック」(1956/リチャード・クワイン監督)は、ジュディ・ホリデイ演じるローラが株主総会に出席したことを切っ掛けに世界を変えてゆく物語。


初めて会社を訪れたローラがエレベーターに乗るのに傘を振り回しているのが楽しげで、私も足元に傘があるのが嬉しくなる。喋る度に跳ねる帽子の羽根、デスクの前で回す椅子、「ピーナッツバターとサーモンのサンドイッチ」には、先週私もピーナッツバターとサーモンを食べたけど別々のメニューだった、今度は一緒に挟んでみようなどと思う。


ローラが大切にするのはいわば「遊び」の部分。彼女が仕事を始めるなり秘書のアメリアに恋の話を持ちかけるのは、彼女に観察眼があり、仕事をしているのが「人間」だと考えていることの表れである。アメリアの「前例はないけどあなたが言うなら…」から話はぐんと面白くなる。「手紙映画」はやはり楽しい。


「why」の女であるローラが株主総会でその名を邪険に呼ばれた際、小株主達が「あなたが『ローラ・パートリッジ』!」と集まってくるのは、今で言えば「あなたが『中の人』!」といったところか(笑)stakeholderとは国民のことである。私達にはどかない、意見を言う、権利がある。オープニング、ガラスの向こうに垂れていた国旗が最後の総会ではかすかに揺れている。



▼「イントゥ・ザ・ホワイト」(2012/ポッター・ネス監督)は、第二次世界大戦中にノルウェーの雪山に墜落したドイツ軍と英国軍の兵士達の、史実を元にした物語。


「純金のキャデラック」のローラがパートナーのマッキーヴァー(ポール・ダグラス)を諭す「納得できる仕事をして帰るのが家庭というもの」とのセリフを、こちらのルパート・グリント演じる英国軍兵士スミスが引き継いでいるように思われた。「仲良し家族かよ」と吐き捨てていたのが、仕事というんじゃないが全員が納得できる日々を送るようになると、ドイツ軍兵士ストランクが描いた皆の絵を(写真をそうするように)飾るのだから。


私達の生活は、誰かを傷つけようと思えば簡単に出来てしまう道具であふれている。殺すの殺さないのだった彼らが「共に生きる」ことを目指すうち、ナイフは食べるために、斧は人の命を救うために、命を奪うための銃が何とゲームの道具になる。終盤ノルウェー軍に発見されたスミスは「You are safe」と言われるが、真の安全とは軍事によるのではなく「人間」らしい暮らしの中にあるのかもしれない。小屋の中の家具や柱がどんどん薪にされ「道具」が無くなるほど皆が「人間」に近付くんだから面白い。


尤もこの映画のようにことが運ぶのは、敵であっても食事を卓で摂らせる人間の尊厳や苔のスープの調味料となるちょっとしたジョークなどを大切にする価値観を彼らが共通して持っているからとも言える。ここで、「史実を元にしている」ことや最後に示される文章が力を持ってくるわけだ。対して「アレクサンダー広場に6時間並んで総統に著書にサインしてもらった」ヨセフの壊死した腕をドイツ軍と英国軍の皆が協力して切り落とすのはあまりに出来すぎた比喩のように感じられ、それも面白かった。