ギフト 僕がきみに残せるもの



オープニング、スティーヴ・グリーソンが「今ならこの腕で君を抱き締められる」とカメラの向こうから語り掛けてくる。以降、妻ミシェルの大きなお腹や生まれた後に眠る幼子に話し掛けた後にカメラのこちらに向き直るのに、変な言い方だけど面白いなあと思う。「こういうこと」は他にもあれど、面白く感じるのは、これらの映像の目的、「誰のためか」が極めてはっきりしているからだ。私達はそれを見せてもらっているのだ。
終盤、スティーヴは「これは映画じゃなく人生の記録だ」、映画上映後のインタビュー映像におけるミシェルさんは「多くの人に見てほしい」と言う。それは相反する思いでは無い。


映画の原題はスティーヴがユニフォームに背負っていた「Gleason」、まずはFather and Sonがテーマである。彼がビデオダイアリーで(すなわち息子のリヴァースに向けて)「君に考えるということを教えたい」「君に何かを教えてもらう日を楽しみにしている」「僕とは違う考えを持つ日を楽しみにしている」「例え聞いたら苛立つとしてもね」と語った後に、父親にインタビューする映像が入る。
この父はスティーヴいわく「失言をしたくせに『どうしたんだ?』と聞いてくる」タイプで、中盤の映像ではチーム・グリーソンのシャツを着て息子に食べさせながら「えっ(ALS患者に)味覚はあるの?」と言うような人である(この時にアップで映される彼の顔は子どもにしか見えない)。「旧約聖書によれば一族が罪を背負い続ける時がある、誰かが神に訴え出なければならない」なんてことも言う。「信仰については誰も口出しできない、僕のことを理解しようとしないで」とのスティーヴの困惑が、このインタビューで解消する。


オープニングの映像でスティーヴがするのと同じポーズを、妻ミシェルも作中一度だけ見せる。それはウエディングカーの上である。私がああする時、それは「やってやる」という意味だ。見ながら何度かそのことを思い出した。始めは彼女こそ「ワンダーウーマン」だと思ったけれど、「悪魔になりたくないけど聖人にもなりたくない、人間でいたい」と言う彼女は、もっともっと「生きている」と思う。
ティーヴが同じALS患者の為の活動に取り組むあまり家族との時間を犠牲にするようになった頃、スーパーボウルのCM撮影時の足元に遊ぶリヴァースがスパイダーマンのTシャツを着ている。スパイダーマンだって色々だけど、今の私には見たばかりのあのスパイダーマンだから…すなわち「皆のヒーローであることより『親愛なる隣人』であることを選んだ男」のことだから…それが大変な偶然に思われた。


破水したミシェルが病院に向かう車内にて、義理の母に「大丈夫(準備は出来てる)?」と聞かれたスティーヴが答える「No choice(笑)」、体が動かなくなった彼が言葉にする「夜は恐ろしく昼は耐え難い」、インタビュー映像におけるミシェルさんの「彼は元気です、今の状態に慣れています」、数年おきのこれらの言葉の数々は、うまく言えないけど、合致するんだと思う。