ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣



私がバレエに無知で映画ファンだからかもしれないけど、このようなドキュメンタリーよりも、例えば「愛と哀しみのボレロ」のジョルジュ・ドンのように出演している映画を見たいなあと思ってしまった。セルゲイ・ポルーニンはどこにいても主役、まさに天才だけど、この作品は彼の物語ばかりをそう上手くなく表出しており、その割には私の好きな「答え合わせ」も無く、作為性が目立って感じられた。


オープニング、「踊ったことも忘れるくらい」のドリンクと鎮痛剤を飲み、タトゥーをファンデーションで消し、黒いマントを羽織って舞台に上るセルゲイに「Iron Man」がかぶり、ほぼフルで流れる時、それはあまりに合っていてぐっとくるが、物語が故郷ウクライナに戻り、再び「ここ」に辿り着く時、もうあれは違うと思う。なぜさっき、あんなものを見せたのか?と辛くなってしまう。ちなみに二度目の「ここ」でセルゲイがやたらと「水」を求めるのが面白く思われた。


セルゲイについて語る家族のインタビュー映像のうち、離婚した母と父は一人ずつだが、「祖母」は二人でソファに並んで話す。あまり見ない画だよなあ、私の祖母同士が会うことってこれまで何度あったろう?とふと考えた。祖母とは実に、子どもから見た呼称なんだと思った。片方の祖母は、孫のキエフ国立バレエ学校の学費のために「とてもきつい」介護の仕事に就いたのだそうだ。


他に印象的だったのは、セルゲイの初めてのバレエの先生。父親いわく「息子をどこに連れて行けばいいか知っていたんだからいい母親だ」…と、選ばれたのがその先生。冒頭ちらと映る、子ども達と踊っている映像が素晴らしかった。学校の先生とは(勿論専科の先生とも)また違う、ああした「先生」の特別性を思った。退団後に故郷に帰った彼とステージで少し踊って見せる普段着の二人がとても素敵だった。