築地ワンダーランド



築地市場に程近い東劇で先行公開中に観賞。


この日は上映後に「現役仲卸による、はっちゃけ築地トーク」が行われた。映画に「はっちゃけ」た部分は全く無かったが、それも当然で、作中の大学教授が本を書くのに15年費やし、本作の監督は600時間分撮影したそうだから、そんな内容を「分かりやすく」まとめたら、「綻び」は無くなるに決まってる。
ちなみに登壇した仲卸の方達が口八丁という感じだったのには、作中の「何よりコミュニケーションの場」「ここを一歩入れば嘘だらけ、騙された方が悪い」などの言葉を思い出した。口が(も)大事な商売道具。


私には出てくる人が皆「同じ」に見えたんだけど、それも当然で、同じ場所で同じものを扱う、「消費者によりよいものを」との精神で働く多くの人の主張を掬い取れば、そりゃあ似通ってもくる。同じテーマについてリレー式に話すかのように見える編集も、その印象に輪を掛ける。トークで「(自分の)映りが少なかった」「働いてるところばかり映ってた」という冗談が出たものだけど、やはりそうだったのかと思ってしまった(笑)
だから、そこから少しずれている、彼らを「客」とする人(氷屋さんや、姿が映るだけだけど、喫茶店の店員や交通整理のスタッフなど)や、その日で仕事を終える人の話が妙に面白く感じられた。特に、三代続いた(築地市場内の)店を今日でやめるという仲卸業者さんのくだりはとても面白かった。だってここだけ、作中唯一、撮影者(監督)の声が入るんだから!


魚が大好きな私だけど、築地市場の魚は(「生で食べるから(築地市場が)発達した」と言われるほど、生で食べるものも多く扱っているのに)それほど美味しそうに見えなかった。これもまた当然で、冒頭「全ての過程にプロがいる、釣るプロ、輸送のプロ…」と築地の外の仕事から紹介されるけれど、私の口に入るまでに、築地を出てからもまだまだ多くの人の手がかかっているからなのだ。
ただし働ている人達は「美味しそう」を連発する。終盤仲卸の人が言っていた「俺達は一週間後の味を想像、いや妄想するからね、ここで働いてるやつらは皆、妄想家だ(笑)」というのが面白かった。それがプロなんだな。


トークの最後の「今日はレディスデーだから、浮いたお金で魚を買ってください」に笑ってしまったけど、でも確かにそうなのだ。いわく「(自分の卸している多くは)気軽に行けるお店じゃないけど」、作中年末に一度だけ行われる干し数の子のセリのくだりで「若い人にも味を知ってほしいけど、贅沢品になってしまったから」など、魚って以前より高価なものになったんだなという印象を受けた。好きだから、買える時に買って食べなくちゃと思う。