ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK The Touring Years



様々な証言により、当時の「社会」も浮かび上がるけれど、それでもこんなにも、「ビートルズ」が主役の映画って無いと思った。キャンドルスティック・パークでのライブの護送車の中で「The Touring Years」が終わり、「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」としてsurviveし(映像がカラーになる瞬間の鮮やかなこと!)、ルーフトップ・コンサートで締め。エンドクレジットで「63年のクリスマスメッセージ」を聞くなんて仕立てがああ、実に「映画」なんだなあ。


物語は、ポールいわく四人が「小さな鞄からスーツを出して、着込んで、ビートルブーツを履いて、皆で見合ってyes!と言っていた」頃から始まる。彼は「揃いのスーツを着ることで、僕達は(one personの後に換言して)四つの頭を持つモンスターになった」と言うが、この映画は確かに、モンスターが知らず世界を制覇してゆく冒険ものである。ちなみにスーツと言えば、エプスタインを紹介するくだりは、これ、映画なんだけど、「映画みたい」で可笑しい。エピソードは知られたものばかりだけど、続く「I Saw Her Standing There」のライブ映像に、ほんとだ〜スーツの方がいい!と「実感」する。


冒頭ポールの口から(どうもこの映画はポールの語りを基礎工事として建てられているようだ・笑)「一夜にしてスターになったわけじゃない、下積みが長いんだ、一日八時間演奏したこともある」などと語られる。作中のライブ映像で最も目を奪われたのは、リンゴのドラミング。音も独特だけど格好も楽しいんだもの。作中一曲目の「She Loves You」から目が離せず、使われている時間は短いけれど「Boys」など圧巻。これまたポールの言葉により、リンゴがバンドの最後の決め手だったと分かるんだけど、それがなくても映像から明らかだ。


実にバランスよく、色々な人が登場してビートルズを語る(面白いことに、「音楽家」以外は誰も「音楽性」について語らない)。最初にリチャード・カーティスが「『仲間達』というものを撮りたいとずっと思っていた」と、その条件として「自分達の冗談に笑う」と挙げる。ビートルズの映像を見ていくと、確かにそうだ。しかし彼らがboysじゃなくなると共に(少なくともこの物語においては)減ってゆく。いわゆる「キリスト発言」の後の会見など、ポールいわく「ジョンは冗談で乗り切ろうとした」そうだが、彼らの誰も笑いはせず、リンゴによれば「ジョンは怯えていた、皆もだ」。「自分」と「世界」の齟齬を感じる。


この映画は、私には、特典のシェイ・スタジアムのライブ映像(デジタルリストア、リマスター版)と合わせることで最強のドキュメンタリーになった。本編がモンスター視点の冒険ものなら、ライブ映像はひとときの彼を外側から見たものだから。見事な「表と裏」だ。自分達には音が聞こえず、リンゴはジョンとポールの尻の動きを頼りに演奏していたと知れば、ジョンの観客への「Can you hear me?」、でたらめ語、リンゴとのアイコンタクト、「I'm Down」において、この日初めてもう嫌だと口にしたジョージの隣ではしゃいで彼を笑わす様子、全てが違って見える。ポール派(って程じゃないけど、どちらが好きかと言えば!)の私も、ジョンって何て魅力的というか面白い人だろうと惹き付けられた。