マイ・インターン



宣伝には全く惹かれなかったけど、ナンシー・マイヤーズ映画は見るようにしているので出向いたところ、これ、彼女の「新たな一歩」にして最高傑作では?食べ終わるのが勿体ない料理のようだった。見終わると「深呼吸」をしたくなった。
「朝の四時に起きちゃって…」とやってきたアン・ハサウェイデニーロがあることを言う場面では号泣してしまった。私は作中の彼女と何の共通点も無いけど、人はさ、ああいう言葉を掛けてもらいたいんだよ、でもって自分だって、出来る時には誰かにああいう言葉を掛けたいんだよ。ハサウェイの仕事ぶりをデニーロが尊敬しているからこその話だとしても、終盤の「もし揉めたら決定権は誰にあるの?」というやりとりからして、この映画はまず「人生の決定権」を手放すなと言っているんだよね。


ナンシー・マイヤーズ映画のヒロインは白を華麗に着こなすのが鉄則だけど、本作ではアン・ハサウェイレネ・ルッソも登場時からして白。以降も様々に白を取り入れた着こなしが見られる。ハサウェイの最初の格好も、脚の長さが何十センチ違おうとしてみたいけど(笑)最後の、何というかまるで素直な学生さんみたいな恰好が素敵。
彼女の映画は「ベッド(での)シーン」が生き生きしているのも特長で、本作でもそう、ぎこちない夫婦のやりとりから、火災報知器が鳴って外に出された後の(この何気ないエピソードもいい/「これでも社長よ、ぱーっといきましょう(Let's go crazy!)」なんて一度言ってみたい・笑)一幕、加えてインターネット関係のネタがいいんだよね、ちょこっとださくて愛さずにはいられない(一番は勿論大傑作「恋するベーカリー」のアレック・ボールドウィンのアレ・笑)今回は「元サヤって言葉で検索したら…」なんてセリフが可愛かった。


ハサウェイがオフィスを構える物件がいい。壁や窓枠は古さが目立ち「ガタがきて」いるけれど、内部は居心地がいいようにリノベーションされている。曇ったガラスはさながら老人の、不自由の出てきた目や耳のようだけど、中に新しいものを入れることは出来る。その組み合わせにより素敵さが増す。この建物自体が作中のデニーロのようでもあるし、この映画そのものでもある。
細部は違えど昔のアメリカ映画を思い出させる「オフィス」、郵便物を配る「新人さん」…にわくわくしているところにデニーロの「クラシックは不滅」というセリフ、それからあの告白。底に「伝統」を感じられるのが楽しい。常にスーツ姿のデニーロを「old school」と言うハサウェイも、クラシック映画に「今」の味付けをしたようなファッションを纏っている。


この映画では「男」であること「女」であること、いや、特に「男」であることかな?そこには作者の期待がこめられてるわけだけど(笑)が今時珍しいほど肯定的に扱われており、それと「人間同士」のお付き合いとは両立するのだという、考えたら当たり前のことが描かれてもいる。そこにぐっときた。
また、映画において「男」と「女」が何らかの関係を持てば、互いにパートナーがいようが年齢が離れていようが、どこかに「性的」な匂いを感じて、正確に言えば「男」から「女」への性的な視線を感じて、それに疲れることも多いけど、本作には一切無かった。それも素晴らしい。


どこかで目にした「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のレビューに「マックスは女の補佐が出来る男」と書いてあったものだけど、本作のデニーロにも通じるところがある。何が大切って、まず話が「分かる」こと。「うちではこんな話は出来ない」「この家はめくるたびにわくわくする絵本みたい」などと言うと「分かって」くれる。それからあのデスク…「とりあえずここに」と置いたものがどんどん膨れ上がってしまう(それは心の内の現れでもある)のを放っておかない意気。この二つって大事だと思う。
ハサウェイのパートナーである「夫」については、例えば彼女が朝の食べ残しのボウルを無言で流しに置くカット(何の気なしの習慣が相手にダメージを与えることもある)や、出張から帰った晩にベッドで彼女のことを思うカットで十分、その気持ちに沿うことが出来る。周囲がうっすら見える「壁」の中の二人、とてもよかった。