ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス



大好きなシリーズの完結編、の前編を公開初日に観賞。今回もとても面白かった。


オープニングはちぢこまり「自分」を確認するカットニス(ジェニファー・ローレンス)。「私はカットニス・エバディーン、ハンガー・ゲームに参加し…」これまでの二作では感じなかったことだけど、全編通じて、こんなにもカットニス視点の物語なのに、彼女の心が全く掴めず…と言うのは文字通り、その心にははっきりした「形」が無く、どんな言葉でも言い切れず、それが面白かった。
演じるジェニファー・ローレンスが素晴らしくて目が離せない。一作目から三年、時に現在の豊かなシャーロット・ランプリングと見まごうほどの彼女が、ピータ(ジョシュ・ハッチャーソン)救出作戦の映像を前にしている時だけ、すなわち「何も出来ない」時だけ「子ども」に見えたのが心に残った。


反乱軍を率いるコイン首相にジュリアン・ムーア、彼女の片腕のプルタークフィリップ・シーモア・ホフマン、二人が揃うといまだに「ブギーナイツ」を思い出してしまう。反乱軍のトップが彼らだなんて、いくらホフマンが「普通」の人の演技をしていようと革命が成功する気がしない(笑)見慣れた表情のジュリアン・ムーアが演説の後に腕を高くあげる姿勢は私でもすぐ真似できそうな気の抜け方で、演技だろうと何だろうと不吉な予感がする。
冒頭、二人はカットニスを「Mockingjay(原題、架空の鳥で作中のレジスタンスの象徴)」としてどのように利用するか話し合う。この場面の最後のホフマンの顔!これだけで映画料金のうち300円の価値はある(いや、すごく良かったってこと・笑)政府の爆撃を受け「新しい情報は一切与えない」とただ隠れてやり過ごそうとするコインに対し「墓に入ってるようなものだ」と、「情報」を発してこそ戦おうと主張する場面なども面白い(その意見は取り入れられないけど)


狭義の「ゲーム」がもう行われない本作で延々と描かれるのは、政府と反乱軍のプロパガンダ合戦。反乱軍の宣伝映像に出演するカットニスは射ることの無い弓を背負い「35歳みたいな」厚化粧をしスタジオに立つが、「普段」と違って皆の心を掴めない。ジェニファー・ローレンスの「演技が出来ない」演技や、「人々は彼女のどこに感動したのか」なんて話し合いを自分で聞く羽目になる時の顔、完成した映像に皆が拍手喝采する時の顔などが面白い。
政府の方は人質にとったピータをプロパガンダ映像に利用する。引き裂かれた「恋人たち」が画面越しにしか相手を見られないというのは実にロマンチック。映画はカットニスの視点で描かれるので、私も一緒になって荒い粒子の彼から何かを読みとろうと必死になる。割り込んだ映像に「カットニス?」と反応するピータが切ない。


見ながらふと、ドナルド・サザーランドは総白髪だからスノー大統領役に選ばれたのだろうか?などと思う。政府側には「白い」ものがたくさんある、バラ、衣装、治安維持隊の装備。対してカットニスの手の中にはピータにもらった黒真珠、地下で暮らす反乱軍の「つなぎ」は濃いグレー…というのも違和感がある程の暗い色。
しかしよく見ると、白の中にも黒、あるいは黒の中にも白がある。目がちかちかしてるところに、カットニスとゲイル(リアム・ヘムズワース)が狩りに出掛ける森でのくだりや、破壊された故郷を撮影した後の川辺でのひと時などの、白でも黒でもない、何の判断も受け付けない「自然」が心に染みた。終盤、第一のクライマックスとも言える場面のキーが「猫」というの、見ながら何でこんな事でこんなに盛り上がるんだ?と可笑しかったけど、振り返ると、ああした「社会」の中で「自然」にすがりたいという気持ちの表れなのかもしれないと思う。


大統領は、政府と(貧しい)人々は「契約」関係にあるからこちらを攻撃するなと説くが、反乱軍においても、カットニスは自らを守るために首相とまず「契約」を結ぶ。先に書いたように、両者は正反対のようで通じるところが多々ある。政府の人質であるピータが映像において戦争をやめるよう語り掛けてくると反乱軍の皆はブーイングを飛ばすが、彼らは十分な軍事施設を備えていながら、諸々の理由により、他の地区を攻撃する政府に立ち向かうことはしない。反乱軍にも「矛盾」や、その性格ゆえの窮屈さがある。
前二作に続きヘイミッチ(ウディ・ハレルソン)やエフィー(エリザベス・バンクス)の出番が尚多いのが意外だったけど、「アルコール中毒」の彼や「こんなつなぎ」に落胆して自室に閉じ籠る彼女は、どんな人であってもいいという豊かさの要素の一つのように思われた。カットニスが「やめて」と言ってもカメラマンに撮影を指示する、映画監督のクレシダ(一度顔を見たら忘れられないナタリー・ドーマー)の勝手でさえも。


戦闘描写において、一つの目的のためにあまりにも多くの人間が命を失うということばかりが心に残った。多分、次作でもそうなのだろうと思う。カットニスと彼らの行く末が早く見たい。