よりよき人生



公開二日目、新宿武蔵野館にて観賞。とてもよかった。


コックのヤン(ギョーム・カネ)はウェイトレスのナディア(レイラ・ベクティ)と出会って恋におち、彼女の9歳の息子スリマンとの3人で暮らし始める。しかし湖畔で見つけた廃屋をレストランをにしたいというヤンの熱望から、彼らは「お金」に追われることになる。


開始5分で、ギョーム・カネの脇の匂いを感じる。BGMが一切無い中、彼の息遣いがひしひしと伝わってくる。それが頂点に達したその後、飛行機に乗り込むと、初めて音楽が「彼ら」を包む。ひと悶着あった後、バスに乗り込むと、また音楽。そしてラストシーン。私はこの映画、好きだなと思った。


この物語は「レストラン開業のひらめき」からじゃなく、この映画が正にそうしている通り、「出会い」から始まっている。ちなみにカウリスマキを愛する者としては…いや彼以前の映画からそういうものだけど、出会いにタバコが一役買う映画には心惹かれる。もっとも「今」はタバコの意味も変わってきているから、本作には少々違う感触も覚えたけど。ヤンとナディアの出会いだけじゃなく、当初「あんなおばさん」呼ばわりだった相談員?の所へ自ら出向いたヤンに向かって、おばさんがタバコをねだる場面が可笑しい。


そもそも、ヤンは「一人」だったならレストランの夢を抱いただろうか?勿論それは「分からない」けれども、これは二人…いや三人、「家族」だからこそはまってしまった泥沼のように思われる。しかしお金が元凶の諍いの後、あるいは一年ぶりの再会の時、ひしと抱き合う彼らの姿には、どちらがいいというんじゃなく、なにか人間の「業」のようなものを感じる。湖からの帰り道、抱き合うようにして歩く男と女、女の手は息子と繋がれている。それは男の手であってもいい、そうなるかもしれないという予感がする。


レストランの構想についてヤンは「夏は湖畔を眺めながらテラスで食事」「冬は暖炉を囲んでカラオケ」などと語る。そうして自然を利用しようとしていたのが、お金に窮するうち、雨漏りなど、自然に苛まれるようになり、やがてそれすらも感じなくなっていく。息遣いが頂点となる時、ヤンの目には「標的」しか映っていない。しかしラストシーン、「二人」は白銀、自然の中で大いに笑う。「ハッピーエンド」どころか何の保証もないけれど、悪くない。


母親に会いたいのにどうすることもできず、ただ湖に枝を投げるスリマンの姿が心に残った。子どもというのは、本当に自分じゃ「どうすることもできない」のだ。だから大人が考えなきゃ。