ウェイバック -脱出6500km-



公開楽しみにしてた、ピーター・ウィアーの2010年作。第二次世界大戦下、シベリアの矯正労働収容所から脱出した仲間たちの実話を元に制作。


冬山!砂漠!に思わず過酷なサバイバルものをイメージしてわくわくしてたら、ピーター・ウィアーだからそういうんじゃなかった。脱走の瞬間を描かないあたりの上品さ、主人公ヤヌシュ(ジム・スタージェス)が何度も見る「家の玄関」の幻などいかにもって感じ。
冒頭、収容所にて、ジム、コリン・ファレルエド・ハリスの顔がしっかり順に映る。それからしばらく、仲間たちの関係が構築されていくのを面白く感じる一方、どうも(映画なのにって意味で)舞台を見ているようで、物足りなさも覚えた。いつの間にあんなもの作ったんだ?など、少し白けてしまう部分もあり。
やっと助かった〜と思ったらまだまだ先が長い。うんざりするほど長い旅の映画にうんざりするのは、そうおかしなことでもないか(笑)


「ミスター・スミス」役のエド・ハリスは世界一美しいゾウガメといった感じの端正な爺ぶり。食事時に他の年寄りに非情なことをしてヤヌシュに「老人じゃないか」と責められると、「俺だってそうだ、でも俺は生き残るぞ」。しかし猛吹雪の中を出発すると、もうダメだとへばってるのが可笑しい。
ヴァルカ役のコリン・ファレルは胸に「鉄の男」スターリンの刺青をした悪党。人を殺すのに躊躇も無いが、ヤヌシュには「お前は頭がいいな、リーダーだ、このナイフにかけて忠誠を誓う」。虫を食べるシーンがあるんだけど、いったん視界から消えて動かないやつを口に入れてるから、作り物だよなあ。しょうがないけど(笑)
途中から一緒になるイリーナ役のシアーシャ・ローナンは好きな女優だけど、出てきてしばらく、何だかむかつく。作中エド・ハリスだけが彼女に冷淡で、それを知ってわざわざ隣にえへっとやってくるのが、またむかつく。それはつまり、私もエドの気持ちになってたということで、二人のやりとりの後には融解するのだった。


(以下「ネタバレ」です)


面白いのは終盤。「いい人」たちに助けられ、何とかチベットのとある集落に辿りついた一行は、冬のヒマラヤを越えるのは困難だからあと3ヶ月待て、それまで面倒を見ると言われる。その晩、アメリカ人のスミスが「自分は(一人で)米軍と合流する」と告げると「お前だけ助かろうってのか」と言われる。あまりに長く「運命共同体」で居すぎて、麻痺しちゃってる。スミスいわく「いいか、俺たちは助かったんだ」「そうか、やりとげたんだな」。
またポーランドが占領されているため、ヤヌシュは祖国に帰ることが出来ない。しかしそんな彼こそが、「歩き続けるしかない」と翌朝早く集落を発つのだった。彼が本当に「家に帰る」までにはあと何十年もかかる。映画はここのみ実際の映像を使用してさらりと描くが、それが却って胸に染みた。