WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々



緑と黄色がテーマカラーの映画に悪いのってないような気がする。緑の中に黄色いトレーナーのポール・ジアマッティと、彼の受け持ちのレスリングチームの、緑と黄色のユニフォーム。


だぶついた服に体でジョギングしている中年男が、ぴったりした格好の男たちに抜かれて振り返る。スクリーンの隅に小さくなったポール・ジアマッティのその体の下に、大きく原題「WIN WIN」。なかなか素敵なオープニング。
場面が替わってベッドから起き出す幼い娘、朝一番の言葉は「shit!」。後に母親ジャッキー(エイミー・ライアン)の口癖であること、娘は大人の言葉を真似ることが分かる。父親のマイク(ジアマッティ)はそれをたしなめるが、職場に出てみるといつものように何もかもが上手くいかず、holy shit!と声が出てしまう。その後、色々あって誰もshit!とは言わなくなるが、終盤問題が起きて…始めから抱えていた問題が露呈して、妻はこれまでの比じゃない大きなそれを発する。


中年マイクと「ひょんなことから」面倒を見ることになった少年カイルとの共通項であり、物語を支えるのは「レスリング」。選手時代のジアマッティについて、旧友のテリー(ボビー・カナヴェイル)が「怒ったフェレット」というのがいかにもで可笑しい。
本作ではそれに限らず、体と体の触れ合いもちょっとしたキーになっている。試合前のカイルがマイクに「びんた」を頼むくだりでは、どんな気持ちになるのか、観ながら想像してしまった(笑)コーチといっても生徒の相手はしないマイクは、終盤初めてカイルと取り組むことになる。一方妻のジャッキーが「ダメなら手を出す」くらいのことはするタイプだというのも面白い。
よく観る映画ならコーチは一人なのが、本作では三人。控え室の小さな机を囲んでるところにカイルが友達を連れてくる場面なんて、どっちが大人だか分からない。とくに途中参加のテリーが、妻を「大工に取られた」ばかりで妄想をまぎらわすためにと付いて回ってる様子は子どものよう。最後の場面までカイルにくっ付いてるのは可笑しいけど、それでもまあいいか、というような雰囲気が良かった。


邦題からイメージしてた内容とは違うけど、少しは合ってもいて、誰もがある場ではしっかりしていてもある場ではダメ、という感じがよく出ており面白い。最後にマイクとテリー、カイルが三人である作業を行う様子に、大事なのは自分が完璧になることじゃなく、他人との関係を育てることかもしれないと思った。
カイルの祖父のレオは自分の娘のシンディについて「難しい子なんだ」、その彼女も息子のカイルについて「難しい子なんだ」と言う。ドラッグ中毒で息子の面倒を見ないシンディが全然、少なくとも私には、嫌いになれないから不思議だ。息子のノックに鏡の前で髪を整えドアを開ける様子は、気持ちはあっても親じゃない、親になれなかったことをうかがわせる。「父にどれだけ嫌な思いをさせられたか」というセリフから、今は認知症に罹ったレオとの過去はどのようなものだったろうと思う。さらに彼にも何か「元」があったろうと思う。


舞台がニュージャージーなので、ボン・ジョヴィの名が出てくる(曲も流れる)。悪くない使われ方だけど、これを観ても、返す返すも「ニューイヤーズ・イヴ」でのジョンは違うだろと思う(笑)