ミラノ、愛に生きる



リニューアルオープンしたル・シネマにて観賞。トイレが洋式になっていた。


ティルダ・スウィントンによる富豪の妻が、息子の友人と恋に落ちる。予告編には「ヴィスコンティを彷彿とさせる」という文句が使われてたけど、そういう感じじゃなかった。だからつまらないというわけじゃなく、悪くない。舞台は重厚だけど、映像は軽快に思われた。


オープニング、作中何度も繰り返される印象的なテーマに乗せて、冬のミラノが映し出される。でかい建物やでかい木にしんしんと降り積もる雪。暗く人影もなく、薄着でだらだらしたい私は見てるだけで息苦しくなる。後に、ティルダ演じるロシア出身の主人公が「ミラノは豊かで何でもあった」と言うのに、そうなのかと思う。
カメラは窓からお屋敷の中へ、ティルダはセーターにパンツの細身な姿。こまやかな顔付きで金の食器を磨き、席順について指図する。そういったことが彼女の生業なのだ。それはそれで性に合ってるらしく、自然にこなしている。


長い時間を掛けて描写される「家族の集まり」は、調度から料理まで、いかにも重厚で見もの。気遣いに追われるティルダの表情も、あまり記憶にないもので面白い(笑)それに対し、ティルダと恋に落ちるシェフのアントニオは都市から車で二時間の「絶景」の中、彼女の顔も伸び伸びしている。ベタな対比だけどぐっとくる。私だって、あの山ん中のテーブルで、片方の手を繋ぎでもしながら食事したほうが楽しい。
二人はすぐ関係を持つのかと思いきや、なかなかそうならない。太陽もまぶしいサンレモの町へやってきたティルダは、大仰ながら陽気な音楽をバックに、彼を見つけて学生のように後を付ける。汚れ放題の日産のトラック(後ろには犬!)に乗り込むと、カメラは彼女の視点になり、がたがた山道をゆく。私もどきどきする。男は木陰で服を脱いで着替え、それから…この省略具合が最高、分かってるなあ!という感じ。冒頭からここまで、ずいぶん遠くに来たなあと思う。


物語はたんなる「不倫もの」ではない。時期を同じくして、家族に色々な変化がある。中でも下の息子と娘はそれぞれ行き詰まり、大好き!なママを求める。ティルダは存在だけで彼らの拠り所となっている。ちなみに娘役の女優さんがティルダにそっくり、というかティルダと父親役との間に出来た子、という感じの顔をしてるのが面白い(笑)
ティルダとアントニオのセックスシーンの後、その時彼らは、とばかりに夫と息子がロンドンの高層ビルでの会議に出てる場面に替わるのが印象的だった。ティルダは「仕事」、少なくとも家業には全く興味がない。そういうのだって勿論ありだよなあ、と却って新しく感じた。エンドロールのティルダと男の様子には、ここまで来たか!と思ってしまった(笑)


ティルダの衣装や髪型が素晴らしかった。彼女って腹など結構出てる、というか年相応に体がたるんでいる。「素」のようなものが美しい人はせこせこワークアウトなんてしない、という感じで(実際は知らないけど)却っていい。下着が素朴なのも良かった。ああ見えて高級品なのかな?「ハートブレイカー」(今年公開じゃないほう)のシガニー・ウィーバーみたいなやつは着ないんだな、やっぱり(笑)