ザ・ホークス ハワード・ヒューズを売った男


ラッセ・ハルストレム×リチャード・ギアの2006年作。二人は本作が切っ掛けで「HACHI 約束の犬」でも組んだのだそう。
ギア演じる三文作家のクリフォードが、大富豪ハワード・ヒューズのニセ自伝でもって出版社や世間を騙すという、史実に基づいた物語。クリフォードの相棒ディックにアルフレッド・モリーナ、妻エディスにマーシャ・ゲイ・ハーデンなど。



「世紀のサギ事件」というより、啓示を受けた一人の男の冒険談、という感じを受けた。それは、彼が妄想内で口走るように「全世界を相手」にしていながら、非常にパーソナルなもの。いい意味でちんまりと温かく、「ザ・アメリカ!」を示すタイムズ社の一室で、クリフォードが出版人相手に相棒の失敗を活かして大ボラを吹く時、窮地に追い込まれて大きな賭けに出る時、変な言い方だけど、部活動や町おこしの一幕を見てるような気持ちになった。
「伝説」との一体化、愛がありつつも不安定な周囲との関係、その合間に、真実と嘘って何だろうと思わせられるエピソードが挟み込まれる。役者からも撮り方からも、映画の滋味を感じた。


観終わって同居人が「ずっと嘘を付き続けて来たんだろうなあ」と言ってたけど、私はそれほど「うそつき!」という感は受けず。しかし、相棒がテンパって口にしたことを見事なエピソードに仕立て上げたり(この映像がまた可笑しい)、妻への言葉の最中、違う出来事の一幕を思い起こしながら語ったりするあたり、ああいう「嘘のつき方」もあるのかと思わせられた。


マーシャ・ゲイ・ハーデンの、70年代ヘアの似合わないこと!(そこがいい・笑)ギアとの「私は美人じゃないから」「そんなことない」「あなたといると、そう感じるの」というやりとりが印象的。ギアの「special friend」にして男爵夫人役のジュリー・デルピーも、雰囲気出てた。


舞台は71年、ギアは勿論、出版社で働く女性たちのファッションが楽しい。やったるぜ!って時に「Up around the bend」が二度(こういうの珍しい)、ラストにストーンズの「You can't always get what you want」が流れるのもいい。最後に最後の曲もお楽しみ、私は初めて聴いた。