サラエボ、希望の街角


タイトルのみの前情報で観た。異国の様子を垣間見られるだけでも楽しそうと思ってたのが、ほんのわずかな間に&ちょっとした切っ掛けから、こんなことになるなんて…という類の物語が丁寧に描かれており、面白かった。身近な人が突然「他人」となる話でもある。冒頭には真からくつろげそうに感じられる部屋が、最後には色褪せ、寂しく見える。



航空会社の客室乗務員として働くルナと管制室に勤めるアマルは、サラエボで同棲生活を送るカップル。あるとき、アルコール依存症のアマルが勤務中の飲酒により停職処分に。かつての戦友に仕事を紹介してもらうが、勤務地は厳格なイスラム教徒が集うキャンプだった。


賑わう町の市場やカフェ、祭の日の家族の集まりなどを見ていると、何の「問題」もないみたいだけど、街の一角には墓地が広がり、団地の向こうにはモスク、私がそこに行けば肌と髪を隠さなければならない。ルナもアマルも他の人々も、私には想像もつかない経験をしている。
ルナは、久々に会ったアマルが髭を伸ばしているのを「ワイルドだわ」と無邪気に喜ぶ。キャンプに向かう途中、イスラム教徒の女性は「西洋人は女らしさを閉じ込めてる」とルナを暗に批判する。テントにおいて、ベールを外した女性は鏡を見て顔や髪を整える。厳格な宗教は「素朴」なんてものではなく、「男らしさ」「女らしさ」を力で強いる。それは、終盤ルナがモスクで目撃して憤る出来事にも現れている。
キャンプの描写は私からすると不気味だけど、ルナがぴょんぴょん飛んでテント?の中をのぞこうとするなど、茶目っ気ある場面により少々和らげられている。


人工受精を取りやめて帰ろうとするルナに向かって、妊娠を望むアマルが思い直したように言う「君は正しい、神の望まない子だ」。神についてルナが「両親が家の前で殺された時、私は神に祈ったわ、二人を返してって」と言えば、彼は「二人とも僕の両親と一緒に天国にいるよ」。宗教が入り込むことにより、こんなにもすれ違いが生じてしまう。


仕事中のルナの機内でのひとコマや、最後の方に一度だけ挿入される、機上からの街の眺めなどがとても効果的。また彼女が「女の子」と触れ合うシーンが二度あり、今のところは何も知らない、さらに次の世代というものを意識させられた。