幸せの始まりは




「ぼくの母親は『クレイマー、クレイマー』を観て家出したんだ、この映画知ってる?」
「知らないわ」
「自立に目覚めて、父と僕を置いていったのさ」
「ふうん、へんなの」


チームをクビになったプロソフトボール選手のリサ(リース・ウィザースプーン)は、友人の紹介で見ず知らずのジョージ(ポール・ラッド)とデート。彼の方は会社の不正問題により収監寸前の身の上だった。


31歳のリサは、ちょうど「クレイマー、クレイマー」が公開された頃の生まれ。ジョージの話に対する「strange」という反応は、お付き合い、あるいは結婚の「後」に「自立に目覚める」なんて変なの、という意味なのかな(その後彼女が一人でDVDを観る場面あり)。私にはこの映画、自立した者同士がパートナーになる過程の一例、に思われた。


前半はリサとジョージの現状が別々に描かれる。上手く言えないけど、周囲との関わりはありながらも「自分ひとり」という感じがよく出ていた。その後、会話、気持ちの動き、行動、関係の変化をうまくつなげて、最後にはほうっとさせてくれる。「始めはあなたが間抜けに見えたけど…」というセリフがいい、まさにその通りだもの。


メジャーリーガーのボーイフレンド・マティ(オーウェン・ウィルソン)と迎えた朝、消耗品として買い置きされた歯ブラシ&スウェット(オーウェンいわく「もてなしの気持ちさ!」)等にキレて出て行くものの、戻って謝るリサ。「都合のいい女」ってわけじゃなく、自分の信条や相手の言動を基に考えて、言動を「修正」するのだ。このあたりから、彼女の人生見直しが始まる。


上記のシーンで、戻ってきたリサに対し「君はdream girlだよ」なんていうセリフが全然嫌味じゃないのが、オーウェンの素晴らしいところ。「プレイボーイのメジャーリーガー」という役を演るにはずいぶんくたびれたと思うけど(何というか、面の皮だけじゃないくたびれ感がある)、それがたんなる「プレイボーイ」という型にはまらない空気を出しておりよかった。自撮りする場面の最後、見慣れた表情が少し違って感じられた。


よく分からなかったのが、リサとジョージの「初デート」場面。「ドン底」同士の二人はリサのとある提案に従って食事するんだけど、途中から唐突にポール・ラッドのアップが続く。「彼女を見つめる彼」じゃなく「彼女から見た彼」の顔に見えたんだけど、なんだか妙だった。


オーウェンのチームメイトとして、「ピンクパンサー2」で日本人捜査官を演じてた松崎悠希が出演。ベンチとテーブル、二度映ってたけどセリフはなし。メインの登場人物同士のやりとりで一杯いっぱいの作品だからしょうがないか。


▼監督のジェームズ・L・ブルックスといえば、観た作品の中では「スパングリッシュ」が良かった(感想)。

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ポール・ラッドといえば、レンタル新作にて「奇人たちの晩餐会 USA」観た。オープニングに「Fool on the Hill」。

ポールが「奇人」のスティーヴ・カレルに振り回されるが最後には親友になる。同名映画のリメイクだけど、何でもかんでもバディものにすることないのに、と思ってしまった。「馬鹿を馬鹿にするつもりがえらいはめになる」話が「真面目な主人公が出世のために仕方なく馬鹿と付き合う」話となり、どこか切実で湿っぽい感じが漂っている。それに私はスティーヴ・カレルを映画でしか知らないから、「デート&ナイト」(感想)を楽しんだ後じゃ、ツッコミ役の方がいいなと思う。
お馴染み迷惑でぶのザック・ガリフィナキスも出てきた。「ハングオーバー!」「デュー・デート」とは少し趣が異なる、小奇麗な役。