しあわせの雨傘



「宝石をつけるのは、従業員たちへの敬意の表れよ
 労働の結果は皆で分かち合わなくちゃ」


とても良かった!しじゅう胸がいっぱいで、観終わって、今年のベストワン作品はこれで決まりと思ったくらい(笑)
カトリーヌ・ドヌーヴ演じるブルジョワ階級の社長夫人、「お飾りの壷」(原題「Potiche」)が、倒れた夫に代わって雨傘工場を切り盛りすることで変わってゆく物語。



映画は、スザンヌ(ドヌーヴ)がジョギングしたり家事をしたりという朝のひとコマから始まる。ラジオから流れる音楽、面白おかしい効果音、このあたりは「よくできた2時間ドラマ」という感じ。勿論それだってオゾン風味で面白い。さらりと「下ネタ」(という言い方は好きじゃないけど)が入ってくるのは昨年末観た「Ricky」(感想)のうんこちんこと同様だけど、それほど違和感はない。


(「ネタバレ」ってわけじゃないけど、今後観る予定があるなら、以下は読まないほうがいいかも)


途中から(私にとっては)たんなる「よくできたコメディ」ではなくなってくる。スザンヌのボスとしての活躍は極めて手短に描かれる。物語のメインは彼女の変化と、それにともなう周囲の人々の変化、彼女と彼らの関係の変化だ。
面白いのが、ジェラール・ドパルデュー演じる市長ババンの言動。予告編から「仕事を通じて変化したスザンヌを愛する「新たな男」(だが、おそらく最後は「身を退く」)」かな?と勝手な想像をしていたら、そうではなく、彼はスザンヌと肉体関係を持ったはるか昔から、ずっと彼女を崇拝してきた男なのだ。しかし再会の後あれやこれやを経て、彼女が他の男とも関係があったことを知ると、仕事の話について「君の何を信じろと言うんだ」と突き放す。これじゃあまるで「(500)日のサマー」(感想)のトムじゃないかと思ってしまった。会ってすぐセックスした後で「自分を大切にしてほしい」などと言い出す男のようなものだ(「男」としたのは、私は「男」しか知らないから)。
しかしスザンヌのモットーは「調和」。娘に対する「なぜ敵対しようとするの、私は味方なのに」というセリフが印象的だった。やがて映画の中に彼女の愛がゆきわたり、役者のチャームによるところも大きいけど、「亭主関白」の夫(ファブリス・ルキーニ)もババンも、可愛らしい部分を見せてくれたり、気持ちに余裕がうまれたりと、穏やかになってゆく。


ドヌーヴの脚がとても魅力的に撮られている。去年観た映画ではいつも細いヒールの靴を履いてたから、今回は太いやつで、歩きやすそうだなあと思ってたのが、話が進むにつれ、時代もあるのか次第に細くなっていく。唯一腿まで露わになるのが、大型トラックに乗り込む場面。その後とある状況になった彼女の、表情の妙の素晴らしさ。「野生的」な男が好き、という前フリが効いている(それが「Ricky」のダンナ!見た瞬間笑ってしまった)。とはいえ「公証人」タイプもかっこよければ好き、このへんの自由な俗っぽさがオゾンらしいところ。


「大団円」は、例えるなら「バード・シット」のラストのような、「時をかける少女」のラストのような…って全然違う気もするけど(笑)よくできた映画をひっくり返す楽しさに不意を突かれる。しかもドヌーヴの単独ステージ。はじめ既成曲を聴かせた「ラジオ」から、ドヌーヴの声が流れる仕組み。人々に囲まれ歌う彼女のカメラ目線には心底しびれた。