すべて彼女のために


国語教師ジュリアン(ヴァンサン・ランドン)は、妻リザ(ダイアン・クルーガー)、息子オスカルとの3人暮らし。ある朝、リザが謂れのない殺人容疑で逮捕され、3年後には20年の禁固刑を宣告される。ジュリアンは彼女を脱獄させる計画を立てる。



映画作りのプロの仕事、これより足す所も引く所もないって感じで、とても面白かった。
物語が始まって程無く、ジュリアンは脱獄計画を練り始める。事件については、冒頭近くにさっさと真犯人の姿を含む経緯が示されて終わり。この客観的なシーンがあるため、その後事件について全く触れられることがなくても、違和感を覚えることがない。作中の脱獄経験者が言うように「相手は国家」、こうなったらただもう、自由を勝ち取るしかないのだ。
脱獄前日、諸事情から派手な犯行に手を染めたジュリアンは警察から追われることになる。当日のクライマックスは、追手とぎりぎりでそれを交わす逃亡者とを交互に映す単純なスリルの積み重ねで、どきどきさせられた。


ジュリアンがインターネットで脱獄のプロを見つけてアドバイスをもらうくだりが、作中とても効いている。その他、公園のベンチの女、身分証を作る男などとのやりとりも、ミニマムでいい。


脱獄後のホテルで、着替えて顔を整えたリザの姿に夫がはっとするシーンがいい。もっとも作中のダイアン・クルーガーは投獄後も大してやつれた容貌にならないので、「シャバ」に出ても差が無く、見ている私のほうはそれほど心動かされない。自殺未遂の後にもきっちり作られた顔に、「絵に描いたような美女」の役なんだろうなあと思った。
彼女以外は隅から隅まで普通っぽい顔の人ばかり。リザの病室にぼーっと付き添ってる、カティ・オウティネン風の看護師が気になった(笑)
ジュリアンの両親も最高で、椅子に座ってばかりのゾウガメのような父親が、決めるときは決める!…といっても些細なシーンなんだけど(ジャケット手渡す所)。息子を送り出す場面では胸がじんとしてしまった。


「子どもが余計な邪魔をする」「押し入った元締めの部屋で女が悲鳴をあげて逃げ惑う」などの見慣れた光景がないので、苛々せずに済むのもいい(笑)ポール・ハギスがリメイクするそうだけど、その際には少し色味が加わるのかな?