サロゲート


代理ロボット「サロゲート」が普及した社会。人間は自宅にこもり遠隔操作を行うことで、生身の肉体を安全に保つことができた。しかしあるとき、襲われたサロゲートの持ち主が死亡するという不可解な事件が発生。FBI捜査官のトム(ブルース・ウィリス)が、その裏に潜む陰謀に迫る。



ブルース・ウィリスサロゲートは、「ブルース・ウィリス」を「美しく」した容姿である。作中の「あなたのサロゲート、あなたにそっくりなのね」というセリフから、この世界では、自身に似たサロゲートを持つことはさほど「変」ではないが「常識」でもないことが分かる。ブルースのサロゲートを彼自身が演じることには諸事情あるんだろうけど、物語において、彼が彼のルックスを備えたサロゲートを持っていることには、それとは違う理由を想像する。
私だってあの世の中に居たら、「皆がそうしてるから…」と適度に美しいサロゲートを持つかもしれない。でも顔は自分のそのまま…あるいはそれを元に改造したものがいい。美や善は不確実だけど、自分に属するものだけは「真理」に思え、よすがにしてしまう。とはいえ身体の方は、もうちょっと脚が長かったり視力がよかったりするほうがいいんだから、顔にだけアイデンティティを感じるなんて不思議なことだ。話がだいぶそれた。


サロゲートが充電器におさまったり出てきたり、持ち主がトイレに行ってる間は止まっていたり…という光景を面白く観たけど、それ以外の社会の様子が今とそう変わり無いので、観ている間中「?」の連続で、劇場を出てから、ストーリーと関係ないことばかり一時間ほど喋り倒してしまった(笑)そもそも代理ロボットなら「普通の人間」の形をしている必要もないのでは?と思うし(「そこは秩序ってものがあるんだよ」と言われた)、「不必要」になった美容産業、あるいは外食産業はどうなるのか?サロゲートが体験したことは、どの程度・どのようにフィードバックされるのか?深く考えないのが吉だ。
アバター」は個人的な体験・感覚を描いていたけど、この作品では、サロゲートが単なる社会の様子として処理されているので、ブルース個人の思いはあまり伝わってこない。妻に対する「本当の君が欲しい」と言うセリフも、ストーリーには沿ってるんだけど、宙に浮いてるようだった。


前半、ブルースのサロゲートが人間と対決するシーンは、面白くもあり違和感も覚えた。ブルースがロボットの側だなんて…と思っていると、クライマックスの前哨戦では、ロボットだらけの世界で、唯一生身のブルースがサロゲートと戦う。「ダイ・ハード」に慣れた身には、飛行機やヘリも落とさない、地味な一戦に物足りなさも覚えてしまうけど(笑)
ブルースの奥さんの職場が「美容院」というのは、もっと面白くなりそうなのに、そうでもなかった。


結局ブルースは、愛する人を引っ張り出すため、指先一つで世界を変えてしまう。帰宅した彼が、妻の部屋のドアを思い切り蹴破るのが印象的だ。