ヴィクトリア 世紀の愛



「世紀の愛」なんて、どんな仰々しい内容だろうと思っていたら、原題「Young Victoria」そのまま…「ヤング・ヴィクトリア(&ヤング・アルバート)」の青春映画(この場合の「ヤング」は「ヤング・シャーロック」のそれのようなもの)。楽しかった。
「愛」方面の描写がメインなのは確かで、政治については、若い二人が執政机を向かい合わせにしてはしゃぐ所で終わっており、最後に字幕で「二人は多くの偉業を成した」と付け加えられる。


「世の中には幸せに生まれつく人間がいる…例えば私」(「もっとも子どもの頃はそうでなかったけれど」)という冒頭のナレーションで、ハッピーな物語であることが分かり、すがすがしい気持ちで観始めることができる。


英国王室ものといっても、ケイト・ブランシェットの「エリザベス」シリーズなどとは全く違っており、ごくごく普通の娘さん・ヴィクトリア(質実剛健なルックスがぴったりなエミリー・ブラント)と、「女王」のベッドにもぐりこめ!と送り込まれたアルバート(可愛らしさ炸裂のルパート・フレンド)とが、互いに一目惚れ…という展開は、学園ドラマ、あるいは古きよき少女漫画の趣。「成り上がり」でお茶目なベルギー国王の叔父、粋なアドバイザーの叔母、口下手で不器用な母、まん丸目のスパニエル犬、アルバートの「恋」を応援する兄など、登場人物も揃っている。



わんこ系のルパート・フレンドが、遠距離恋愛に胸を焦がし、郵便の届く音に階段を駆け下りてきたり、ささやかな「ハネムーン」にはしゃいでコケたりする様がとてもキュート。満を持しての登場で、二頭の犬と共に現れる場面にはしびれてしまった…たんに美しいその様子に、彼なりの思いの表し方に、さらにはその犬の選択に(ベルギーの有名な犬なのかな?)。ヴィクトリアもそうだった様子。
政略渦巻く中に居るヴィクトリアに宛て、アルバートは「君とシューベルトの『白鳥の歌』を弾きたい」と「自分の夢」を綴り、窮地に陥った彼女を「愚か者じゃない、愚かな者の言うことを聞いてしまっただけ」との思いで陰から支える。作中の二人の関係はとても「個人的」だ。
終盤、愛する人と国のためにと頑張る彼に対し、ヴィクトリアが怒って「私を差し置いて…女としか思ってないんでしょ」「出ていくことは許さない、女王命令です」などと言うので、どうなるんだろうと思ったら、翌朝?アルバートが彼女をかばって撃たれ、ケンカの後のセックスのようにあっさり仲直りするのには、拍子抜けしてしまった。


野心を抱く「政治家」(作中では「君主制を嫌う」存在)メルバーン卿を演じるのは、ポール・ベタニー。少女漫画的に言うなら「第二の男」であるべき彼が、色気もわびさびもなく、ヴィクトリアにとっても観客(私)にとっても単なるおっさんで終わってたのは残念。議会で責められるシーンは、普段見せない姿を垣間見るようで、ちょっと良かったけど。


「悪者」が犬を蹴飛ばすシーンで本当に蹴らないのは、愛護団体から文句が来るからなのかな?