MW -ムウ-


試写会にて観賞。
とても面白かった。疑問に思うシーンも吹き出しちゃうようなシーンも多いし、音楽は煩いし、冒頭の長丁場のアクションシーンには飽きちゃったし、クライマックスでは何をやってるのかよく分からかったけど、ともかく観ていて楽しかった。最初から最後まで、玉木宏を応援してた。



16年前、離島で兵器がらみの虐殺事件が起こり、政府によって隠蔽される。唯一逃げ延びたのが結城美知夫(玉木宏)と、彼に助けられた賀来裕太郎(山田孝之)。現在、結城は銀行員として社会生活を送りつつ凶悪犯罪を重ね、牧師となった賀来は悩みつつもそれを手助けしていた。


ストーリーは手塚治虫の原作にかなり忠実だけど、性的な部分をそっくり避けているので、全くの別物になっている。だから私が感じた楽しさは、原作の面白さを味わえた、というのではなく、たんに映画として面白かった、ということだ。
かりに原作の「年長の男が少年をレイプ」「女とみまがう美少年」という要素をそのまま観せられたら、陳腐で古臭く感じてしまうだろう。他の諸々の要素についても、実際に体感するならともかく、少なくとも普通の映画においては、分かりやすい「猟奇」にはいやらしさを感じない。
また原作では、美知夫は賀来を誘惑するときは「女」になって「抱いて」と迫り、女性を誘惑するときは「狼」になって(実際に狼として描かれてるコマがある)絶倫ぶりを発揮する。こういうふうに男女の役割が(その実態が男であれ女であれ)きっちり分かれてるというのも、映画で描くには古臭い。


(そもそもフィクション中の「同性愛」に関わる男が、女っぽいか、あるいは過剰に男っぽいのは、異性愛者が「『普通』じゃないならしょうがない」と納得するための装置でもあるんじゃないか?/「ムウ」原作の場合、漫画ならではの表現で、美智雄の女装が通用することが面白い要素になってるけど)


「命の恩人」という条件はあれど、ただ二人の男がいる、というだけの本作はエロい。「直接描写ができないからなんとか…」というわざとらしいシーンも幾つかあるけど、馬鹿馬鹿しい感じはしない。作中二人が初めて対面する場面(原作と通じる)はとても素敵だし、息も絶え絶えな美知夫が明日の悪事について告げる場面も良い。


作中の毒ガス兵器・ムウにことごとく「ムウ」の表記があるのには笑ってしまった。映画版には美知夫が賀来や女性を性的に誘惑する描写は無いんだから、彼が執着する「ムウ」自体、あるいは彼とそれとの関係くらい、エロティックであればよかったと思う。


玉木宏山田孝之も、シルエットだけで誰と分かる役者さんだ。実際、暗がりからの登場シーンが多い。
それにしても玉木宏の顔の小ささには度肝を抜かれた。石橋凌と初対面のシーンでは、いったい何が起こったんだと思ってしまった。それにルックスが漫画っぽく、眼鏡をかけた顔つきや寝姿は、原作の美智雄にそっくり。
石田ゆり子は、「頑張れば報われる」世界の人、というイメージがあったので、私には意外な起用だった。彼女と後輩との関係に、数週間前に観た「消されたヘッドライン」(感想)を思い出した。私は男が後輩っていう映画の方が好き(笑)