モンテーニュ通りのカフェ


「電話が鳴ると『誰かしら』とわくわくするタイプ」…のジェシカ(セシル・ドゥ・フランス)は、かつてセレブに憧れたおばあちゃんの言葉を胸に上京、運よくモンテーニュ通りのカフェに雇われる。訪れる「セレブ」の中には、舞台の初日が迫った女優、演奏会を控えたピアニスト、コレクションを売り払おうとする資産家などがおり、それぞれ事情を抱えていた。



数か月前、フランス映画祭のCMを映画館でよく見かけた。オープニング作品を撮ったソフィ・マルソーがエッフェル塔をバックに歩いたりキスしたりするもので、彼女の作品に興味は湧かなかったけど、パリって魅力があるな〜と思ったものだ。
私はこの映画の舞台となっているエリアを体験したことがないので、どういうところなのか分からない。資産家の息子フレデリックいわく「あの女はミンク、あの女はクロコダイル…スノッブだ」。見たところ多くの人種・人が集っている。物語は町が主役といってもいい。


主人公を演じたセシル・ドゥ・フランスが可愛い。前歯の間にはちょっとした隙間、ハトのように首を振って歩く。出前した先々でセレブの裏側をしっかり覗き、関係者に咎められても平気だ。天真爛漫というより無神経にも見えるけど、セレブたちは健やかな彼女に心を開く。厳しいカフェの上司に向かって「あなたはセレブじゃないんだから、もっと優しくしてくれても…」と言うのが笑える。
着のみ着のままでやってきた彼女は、制服の他はいつも同じ格好だ。Tシャツにパーカー、ジーンズの上着、ダウンのベスト。ミニスカートに黒いタイツとブーツ。私は自分自身の格好については「身につけるものを少なく」が信条だけど、あんなふうに長い脚と雰囲気があれば、ああいう重ね着もいいなと思う。
男性のフレデリックの、極めて実用的な重ね着も美しい。ごく普通のシャツにセーター、その上にスーツとコート。これもまた、きれいな身体でないと決まらない。


とはいえ見ていて一番面白かったのは、ヴァレリー・ルメルシエ演じるカトリーヌ。人がグチを盛大にこぼす姿って、映画でなら観ていて楽しいものだ。頬の肉の揺れ具合がいい。昼メロの人気女優だが舞台との掛け持ちで寝る暇もない中、今後の方向について悩んでいる。映画出演のチャンスとなる食事の場で、「パリのアメリカ人」の映画監督(シドニー・ポラック)相手に喋りが止まらないシーンが可笑しい。
悩めるピアニストを演じたアルベール・デュポンテルは、「地上5センチの恋心」(今年観た映画の中では、これがいちばんのお気に入り…感想)と同じく「逃げる男」。またジャージみたいなのを着てる(笑)日本語を喋るシーンもあり。


ブランクーシの彫刻「接吻」にまつわる部分は、全然違う話なんだけど、くらもちふさこの「千花ちゃんちはふつう」を思い出してしまった。



「フェドーの芝居は心理描写がないからいい
 ただのコメディだから、心底笑える
 人生はそんなふうにはいかない」
  (シドニー・ポラック演じるアメリカ人映画監督。合掌)