主人公は僕だった


休日の夕方、みゆき座にて。10分ほど前に着いたら、もう数席しか空いていなかった。びっくり。



国税局に勤めるハロルド(ウィル・フェレル)は、決まりきった生活を送る平凡な男。しかしある日、自分について語る「声」が耳に飛び込んでくる。それは、彼を主人公に小説を書くカレン(エマ・トンプソン)のものだった。


出てくる建築物の内や外、ディティールが面白く、興味ぶかく観ました。エンドクレジットで、建物があらためて見られたのも良かった。それにウィルが同僚に振舞われる日本料理は間違いなく、今年観た映画における「不味そうなもの」ベストワンだ(しかしどちらも手を付けてなかったのは残念…)。
同行者はウィル・フェレルが苦手なんだけど(「ズーランダー」的な、つまり彼の彼たるところがダメらしい)、この映画の彼はとても良いと言っていた。ちなみに他に誰なら役に合ってるかというと、スティーヴン・トンプキンソン(「ブラス!」のトロンボーン奏者/二人とも名前は知らず)だそう。


私の一番好きなシーンは、スランプ中の「作家」エマ・トンプソンのところに、「作家アシスタント(編集者?)」クイーン・ラティファがやってくる場面。プロの二人は互いに堂々としており、見ていてすがすがしかった。「タバコの吸殻を買ってきた」というセリフも可笑しい。
あんなアシスタントがほんとに居るのか知らないけど、自分に向いてるかも…と思った(創造的な仕事は苦手だけど、めんどうな誰かのめんどうを見るのは嫌いじゃない・笑)。
エマ・トンプソンはほとんどよれよれのパジャマ姿だけど、その姿はとても美しく…というか心地よく、最後に普通の洋服を着たときなど、あまりに美人なので驚かされた。全篇通して耳にした彼女のナレーションはすごく聴きやすかったし、陳腐な言い方だけど、ちゃんと筋の通ってる人間の美しさだ。


ウィルが惚れちゃうマギー・ギレンホールについては、ああいうパン屋のあり方があるのか、と気付かされた。日本じゃ難しいだろうけど、定食屋や立ち飲み屋みたいなカンジで、若者から年寄りまで皆がふらっと立ち寄る。パン屋って、スローフードに一家言あるような人がやるもんという勝手なイメージを持ってたけど、彼女は怒ると生地を投げつけたりして、やたらとパン、大事にしてない。私にもできそうだ〜と思ってしまった。


ウィルがバスの中で「自分が主人公の小説」に熱中するシーン。日本なら(都バスなら?)終点に着けば下ろされちゃうのに、おそらく何往復もして、読み終える。バス好きの私にとってはそれも羨ましいし、自分の人生における「ギターを弾くシーン」はなんだろう、と思わせられた。たとえ早くに死んでも、人生にああいうシーンがあり、しかもそれを小説で読めちゃうだなんて、幸せなことだ。